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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
電気事業法における技術基準と技術基準の解釈の規定について 日本電気協会 技術部 白川 義康

技術基準は,電気事業法における電気工作物の保安確保の要として定められており,重要な役割を担っています。この電気事業法の技術基準及び技術基準の解釈について,行政手続法に基づく審査基準としての位置づけと,電気事業法上の規定の意味を説明します。

01.電気事業法における電気工作物の保安確保

 電気事業法は,電力会社などの電気事業の適正・合理的な運営に関する規定を定めることにより電気使用者の利益保護を図るとともに,電気工作物の保安確保による公共の安全確保,環境保全等を目的として制定された法律です。
 電気工作物の保安に関しては,設置者の自己責任原則に基づく自主保安を原則としています。電気事業法では,電気工作物を「一般用電気工作物」と「事業用電気工作物(自家用電気工作物も含まれます。)」に区分していますが,保安確保に関する規定は,自主保安を原則としつつも一般用と自家用では異なっています。
 事業用電気工作物の保安確保の概要は下図のとおりですが,電気事業法の規定では,設置者の自主保安に関する事項、国による自主保安の補完事項及び国が直接的に関与する事項に区分できます。

 これらの保安確保の体制の要になるものが,技術基準です。
 電気事業法では,事業用電気工作物を設置する者は,その工作物を技術基準に適合するよう維持しなければならないと定めており(法第39条「事業用電気工作物の維持」),技術基準違反であることが判明すれば,国は事業用電気工作物の修理,改造,使用の一時停止などの命令をすることができるようになっています。(第40条「技術基準適合命令」)
 また,電気事業者自らが,電気主任技術者を選任して電気工作物の保安管理に当たらせること,保安規程を作成し遵守すること,電気工作物の自主検査を行うことなども,電気工作物の保安確保に欠かせない重要な事項として規定されています。平成28年4月から工事計画の届出が省略できる自主検査に使用前自己確認が追加されました。



02.電気事業法における7つの技術基準

 電気事業法が適用される電気工作物とは,次のように定義されています。

〔電気工作物の定義〕
発電のために設置する機械,器具,ダム,水路,貯水池, 電線路その他の工作物
変電,送電,又は配電のために設置する機械,器具, 電線路,その他の工作物
電気の使用のために設置する機械,器具,電線路,その他の工作物

 このように,発電所の各種設備から工場や家庭の電気配線まで,非常に幅の広い範囲の電気工作物が法規制の対象になりますが,これらの電気工作物の保安を確保するために,以下のような7つの技術基準が定められています。

〔技術基準の種類〕
電気設備に関する技術基準を定める省令(略称,電技)
発電用水力設備に関する技術基準を定める省令(略称,水技)
発電用火力設備に関する技術基準を定める省令(略称,火技)
発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令
発電用風力設備に関する技術基準を定める省令(略称,風技)
発電用核燃料物質に関する技術基準を定める省令
電気工作物の溶接に関する技術基準を定める省令(略称,溶技)

 電気主任技術者に関わりの深い技術基準である「電気設備に関する技術基準を定める省令」(略称,「電技」)は, 発電所の電気を供給するための電気設備から,工場・家庭などの電気使用場所の電気設備・配線などに適用される技術基準です。

なお、原子力発電設備は、原子力規制委員会の技術基準によることになっており、電気設備技術基準の適用から除外されております。


03.「技術基準」と「技術基準の解釈」について

(技術基準は7つの分野で制定されていますが,以降は,水技,火技,電技の三技術基準を対象とした説明とします。)

(1) 技術基準について

 技術基準は,電気事業法の「省令」(経済産業省令)として規定されており,法律に基づく技術基準の適合命令などの行政行為のよりどころとなる基準であり,また電気工作物の設置者は必ず守る必要のある強制基準です。しかし,設備が達成すべき性能,目標を定性的に規定した内容の基準であり,具体的な規定になっていません。
 その典型的な例として,電技第4条の規定を紹介しておきます。

電技第4条(電気設備における感電,火災等の防止):
「電気設備は,感電,火災その他人体に危害を及ぼし,又は物件に損害を与えるおそれがないように施設しなければならない。」

 このように,技術基準は具体的な規定をしていないため,どのような電気設備であっても,常にこの技術基準が要求する事項を満たしているか否かの判断が必要であり,技術基準に適合しているという技術的根拠を明確にしておく必要があります。
 また,逆に,この規定を満たしていると判断される技術的根拠を有していれば,どのような設備であっても施設可能になるという柔軟性を含んでいる,と言うことも可能です。平成9年に技術基準は性能規定化の観点から大改正が行われ,現在の技術基準の体系になりましたが,技術基準にこのような柔軟性を持たせることも重要な課題でした。
 このような内容の技術基準であるため,その要求事項を満たす具体的判断基準が必要となりますので,そのために制定されたのが,「水力,火力,風力及び電気設備の技術基準の解釈」です。

(2) 技術基準の解釈について

 電気設備の技術基準の解釈には,次の前文が記載されています。

 この電気設備の技術基準の解釈(以下「解釈」という。)は,当該設備 に関する技術基準を定める省令に定める技術的要件を満たすべき技術的 内容をできる限り具体的に示したものである。
 なお,当該省令に定める技術的要件を満たすべき技術的内容は,この 解釈に限定されるものではなく,当該省令に照らして十分な保安水準の 確保が達成できる技術的根拠があれば当該省令に適合するものと判断す るものである。   (水力,火力及び風力の技術基準の解釈にも同様に記載。)

 このように,技術基準の解釈は,技術基準が求めている技術的要求事項を満たすための具体的な技術的内容を,一例として規定しているということが記載されています。
 このことは,技術基準の解釈に規定されていない施工方法などであっても,十分な技術的根拠があれば,技術基準に適合しているものとして施工が可能であるということを意味しています。 
 技術基準の解釈は,旧技術基準の詳細な規定が移行された規定内容になっており,これに適合した設備であれば,強制基準である技術基準に適合しているものと判断されますので,実際上は,今までの使用経験と実績のある「技術基準の解釈」が標準的な基準として使用されています。

(3) 技術基準の解釈の意義

 技術基準の解釈は,技術基準の要求事項を満たす具体的な規定ですが,省令という位置づけではないので,柔軟な運用が可能となっています。その特徴としては,次の事項があげられます。

  • 技術基準とは異なり,行政庁の所管部署において改正が可能なため,迅速な改正が可能である。
  • 国際規格,民間規格など,他の規格の引用が可能である。

※現在,電技の要求事項を満たすと判断されたIEC規格(IEC 60364:低圧電気設備)及びIEC規格(IEC 61936)が技術基準の国際整合という観点から電気設備の技術基準の解釈に規定されていますし,国内の民間規格(日本電気技術規格委員会規格)や海外の材料規格(米国材料試験協会規格,米国機械学会規格,欧州規格など)が技術基準の解釈に引用され,使用可能となっています。



04.行政手続法の審査基準と技術基準の解釈の関係

 

 技術基準の解釈は,技術基準の要求事項を満たす具体的な技術的内容を規定した一例として制定されましたが,行政手続法とそれに基づく電気事業法の審査基準と密接な関わりを持っています。その関係を以下に説明します。

(1) 行政手続法

 行政手続法は,行政における許認可等の行政行為を行う際の透明性,迅速性などを義務づけた法律です。
 この法律に基づき,行政庁は,法律の定めに従って行政判断をする場合,必要な基準(審査の基準,処分の基準など)を定め公表することが必要になりました。行政手続法においては,第5条:審査基準,第12条:処分基準,の規定があり,行政庁に対して行政判断のための具体的な基準を定める義務を課しています。

(2) 電気事業法の審査基準

 電気事業法においては,「電気事業法に基づく経済産業大臣の処分に係わる審査基準等について」(以下,「審査基準等」と略称。)という名称で,行政手続法に基づく審査の基準,処分の基準,標準審査期間等を定めています。
 電気事業法では,

・第40条
(事業用電気工作物への技術基準適合命令に関する規定),
・第48条
(事業用電気工作物の設置・変更の届け出に関する工事計画の変更命令などに関する規定),
・第56条
(一般用電気工作物への技術基準適合命令に関する規定)

 などの条文に基づき,電技,火技,水技などの技術基準に照らして,行政処分を行うことができる旨規定しています。
 そして,電気工作物の技術基準への適合義務を遂行させるため,審査基準等の規定の中において,この行政処分を行う場合の具体的な判断の基準として,技術基準の解釈を指定しています。

(3) 審査基準等と技術基準の解釈

 審査基準等において,技術基準に適合するものとして技術基準の解釈を指定している部分の例を,以下に示します。

「審査基準等」の中の,
「第2 不利益処分 1.審査基準」における規定 (一部を抜粋)
(18) 第40条の規定による事業用電気工作物の修理命令,停止命令等
第40条の規定による事業用電気工作物の修理命令,使用停止命令等の判断基準は,次のとおりとする。
事業用電気工作物(発電用原子力設備を除く。) のうち,発電用水力設備に関しては,「発電用水力設備の技術基準」を,発電用火力設備に関しては「発電用火力設備の技術基準・告示」を,電気設備に関しては「電気設備の技術基準」をそれぞれ基として個々の事例ごとに判断するものであるが,「水力,火力,電気設備の技術基準の解釈」の該当部分のとおりである場合には,同条の規定による事業用電気工作物の修理命令,使用停止命令等が発動されないものとする。

 技術基準の解釈は,技術基準の技術的要求事項を満たす具体的技術要件の一例として提示されていますが,電気事業法においては,このように不利益処分を行う際の行政庁の判断の基準という位置づけを有しています。
 技術基準の技術的要求事項を満たす具体的技術要件の一例として提示されている技術基準の解釈は,技術基準に適合するものとして審査基準等の中で指定されているという関係になっているということになります。


05.技術基準の性能規定化の背景

 以上のように,技術基準には,電気工作物が達成すべき性能,目標のみを規定し,その詳細規定は技術基準の解釈に移行するという大改正が平成9年に行われました。
 この改正は,旧通商産業省の電気事業審議会(電力保安問題検討小委員会)の平成6年12月の報告に基づき,次の観点から改正されたものです。

技術基準は保安上必要な性能のみで表現し,技術進歩に対し,柔軟に対応する。
規制の必要の少なくなった技術基準の条項は見直し,整理,削減する。
外国規格,中立的民間機関の規格など,公正中立な民間規格を技術基準に引用することにより,技術の進歩に迅速に対応する。

 この改正のことを,「技術基準の性能規定化」と称しています。
 これは,電気工作物の保安実績が向上してきたことを背景として,設置者の自己責任を原則として国の規制を必要最小限にするとともに,技術進歩への即応,民間規格の活用,国際規格との整合等を目的として,政府の規制緩和政策の一環として改正されたという背景があります。