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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
オシロスコープとアナライザ 富士電機(株) 山崎 靖夫

オシロスコープとは、電気信号(電圧)が変化していく様子をブラウン管に描かせ観測できるようにした波形測定器であり、メータ類と大きく異なるところは単にその電圧の平均的な値を測るものではなく非常に高い周波数の電気信号の変化も描くことが可能で、突発的に発生する現象も捉えることができる信号の周波数成分を分析する計測器である。ここではブラウン管式及びデジタル式オシロスコープの仕組みとリサージュ波形、また、スペクトラム式及びFFT式アナライザ(周波数成分を解析する)の構成について解説する。

1.オシロスコープ

(1)ブラウン管オシロスコープのしくみ

 第1図にブラウン管の構成を示す。

 カソードをヒータ(第1図には不図示)で加熱すると熱電子が発生する。この熱電子は二つのグリッド(G1,G2)に引き寄せられて加速される。加速された熱電子は、電子レンズで集束されて電子ビームになる。電子ビームは、ブラウン管正面の内壁面に塗布されている蛍光物質に到達して蛍光物質を発光させる。この電子ビームを垂直偏向板と水平偏向板で上下、左右に偏向させれば、その偏向方向に従ってブラウン管上に図形が表示される。

 ブラウン管を用いたオシロスコープの構成を第2図に示す。

 オシロスコープに例えば正弦波交流を表示させるときのメカニズムは次のとおりである。

 ①第3図に示すように垂直偏向板だけに正弦波交流電圧を印加する

  垂直偏向板間に正弦波交流電圧に比例した強度と向きの電界が発生する。このため、電子ビームが上下に偏向され、表示が上下方向に変化する。

 ②第4図に示すように水平偏向板だけに、のこぎり状に変化する電圧(のこぎり波)を印加する

  水平偏向板間には、掃引発振器から出力される「のこぎり波」の電圧の大きさに比例した電界が発生する。このため、のこぎり波の周期に一致して電子ビームが左右方向に変化する。

 この①と②を同時にオシロスコープに与えると、正弦波がブラウン管に映し出される。

(2)ディジタルオシロスコープのしくみ

 ディジタルオシロスコープの構成を第5図に示す。入力信号変換部に与えられた被測定信号は、次段のA-D変換部の入力信号レベルとしてふさわしいレベルになるように変換される。

 A-D変換部は、入力されたアナログレベルの信号をディジタル信号に変換する。このA-D変換部の代表的な回路には、逐次変換形A-D変換器、並列比較形A-D変換器、積分形A-D変換器などがある(ディジタル計器の基本構成と測定原理の講座を参照)。

 A-D変換部でディジタル変換された被測定信号は、いったんメモリに記憶され演算処理が施される。そして、このデータをブラウン管ディプレイに表示させるため、ディジタル信号をアナログ変換(D-A変換)する。ブラウン管に測定信号が表示される原理はブラウン管形オシロスコープと同様である。

 このディジタルオシロスコープは測定信号をデータとしてメモリに記憶させておくことができるので、1回だけしか発生しない単発現象の観測や測定波形のプリント出力のほか、演算機能を用いて繰り返し周波数、信号の最大・最小値、平均値などを表示させることができる。また、被測定信号がディジタルデータに変換されているので、そのデータをもとにコンピュータ処理することでより複雑な解析ができる。

(3)リサージュ波形

 オシロスコープの横軸(水平信号)に第6図に示すように外部から信号波を加える。すると、縦軸(垂直信号)の周波数と位相差によって種々の波形を観測することができる。この波形をリサージュ図形という。

 リサージュ図形を用いれば、二つの信号の位相差、周波数比などを求めることができる。

2.アナライザ

(1)スペクトラムアナライザ

 スペクトラムアナライザは、信号の周波数成分を分析する計測器である。横軸に周波数が、縦軸に信号のレベルが表示される。スペクトラムアナライザは、交流電源に含まれる高調波レベルの測定や無線機の不要輻射などの測定などに用いられる。

 第7図にスペクトラムアナライザの構成を示す。のこぎり波発生器の次段に局部発振制御回路を設け、周波数を比例的に変化させる。そして、入力信号の周波数と局部発振回路の周波数との差の成分を周波数変換器でIF(中間周波数)信号として取り出す。IF信号は増幅器で増幅され、ブラウン管の垂直軸に加えられる。一方、ブラウン管の水平軸は、のこぎり波で水平に掃引される。このため、入力信号を周波数の関数として表示することができる。

(2)FFTアナライザ

 フランスの数学者フーリエが、すべての周期関数は正弦(sin)波または余弦(cos)波の組み合わせで表せるこという法則を発見した。これをフーリエ関数という。

 FFT(高速フーリエ変換)アナライザは入力信号をフーリエ関数に高速変換するもので信号の周波数成分を解析することができる(第8図)。

 FFTアナライザに入力された測定信号は、A-D変換器でディジタルデータに変換された後、専用の演算装置(FFT プロセッサ)でフーリエ変換され、その結果がCRTディスプレイに表示される。

 FFTアナライザは、音響解析や振動解析を中心に使われてきたが、電子ディバイスのノイズ評価、電話回線端末機器の評価などにも用いられている。

 〔例題〕 ブラウン管オシロスコープのx軸およびy軸に、それぞれ交流の正弦波電圧を加えたとき、これらの電圧の周波数が適当な(ア)比になれば、ブラウン管上の図形は長円形や8字形その他の図形となる。この図形を(イ)図形という。y軸の電圧の波形を直接観測するにはx軸の電圧は(ウ)波形でなければならない。このx軸の電圧を時間軸電圧と呼んでいる。

 上記の記述中の空白箇所に記入する字句として正しい組み合わせを選べ。

 (1) (ア)偶数 (イ)リサージュ   (ウ)正弦

 (2) (ア)整数 (イ)リサージュ   (ウ)のこぎり

 (3) (ア)偶数 (イ)ヒステリシス  (ウ)三角

 (4) (ア)整数 (イ)リヒテンベルグ (ウ)半波整流

 (5) (ア)逆数 (イ)ヒステリシス  (ウ)全波整流

 〔解説〕周波数の比が整数(偶数または奇数)であればリサージュ図形が描ける。x軸を時間軸とするにはのこぎり波を加えればよい。

 〔正解〕(2)