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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
油入変圧器の温度上昇試験 富士テクノサーベイ(株) 山崎 靖夫

変圧器はその温度上昇が規定の限度内にあるかどうかは温度上昇試験によって確認する。温度上昇試験は変圧器の損失分の電力を供給して最高油温度上昇と巻線温度上昇を求める。損失分の電力を供給する各種試験方法(実負荷法、返還負荷法、等価負荷法、タップ差利用法)と注意事項を解説する。

1. 温度上昇試験の種類

変圧器はその温度上昇が規定の限度内にあるかどうかを温度上昇試験によって確認する。この試験には最高油温度上昇と巻線温度上昇などがある。

(1) 最高油温度上昇

この試験は油温が最高であると思われる場所に温度計を設置して油温を測定する。この試験において変圧器に全損失を供給した場合、最高油温度測定値と基準冷媒温度との差が最高油温度上昇となる。なお、この試験中は熱的定常状態に達するまでの間、試験条件を一定に保つ必要がある。

なお、全損失を供給できない場合は、その80%以上の損失を供給して試験を行うことがある。この場合、定格に対する最高油温度上昇は(全損失/供給損失)0.8 の係数を乗じて算出する。

(2) 巻線温度上昇

巻線温度は抵抗法によって測定する。試験開始前の巻線温度と巻線抵抗値をそれぞれ、θ1〔℃〕、R1〔Ω〕、試験最終時の巻線抵抗値をR2〔Ω〕とすれば、そのときの巻線温度θ2は巻線の種類によって次式で求めることができる。


(1)銅巻線の場合

formula01
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(2)アルミニウム巻線の場合

formula02
formula02

巻線温度上昇は抵抗法によって得られた巻線平均温度と基準冷媒温度との差として求めることができる。この巻線温度測定にあたっては、次の点に注意する。

  1. 巻線と油の温度差が一定になるまでの間、供試巻線にその定格電流を流すこと。
  2. 温度測定時に負荷を遮断すると温度が低下するので、遮断後に数回抵抗測定を行い、時間に対するグラフを作成して遮断時の巻線温度を求めること。
  3. 定格電流を流すことができない場合は、その90%以上の電流を通じて試験を行うこと。
    この場合、定格電流に対する巻線平均温度と油平均温度との差は、測定によって得られた値に(定格電流/試験電流)1.6 の係数を乗じて算出する。

なお、油平均温度は最高油温から冷却装置上下の油温度差の半分を差し引いて求める。

2. 温度上昇試験の方法

(1) 試験方法

(a) 実負荷法

実負荷法は定格負荷状態において温度上昇試験を行う試験法である。このため得られた測定結果に対する補正が不要である。しかし、すべての変圧器を定格運転状態で試験することが難しいので、実負荷法は専ら小形変圧器に適用される。また、実負荷法は電力損失が多く試験設備が大きくなるため不経済な試験方法といえる。

したがって、大形の変圧器は、次項の返還負荷法または等価負荷法によって試験をする。

(b) 返還負荷法

返還負荷法は2台以上の同一定格の変圧器を用いた試験法である。この試験は電源側から変圧器の損失分だけを供給すれば済むという特徴がある。


(1) 単相変圧器2台の場合:変圧器を第1図に示すように高圧及び低圧の各巻線をそれぞれ並列に結線する。次に電源を低圧側に接続して定格電圧・定格周波数で励磁し、無負荷損失を供給する。そして高圧側巻線の一端を開いて巻線内に定格負荷電流を流すのに十分な電圧(変圧器1台の高圧側から測ったインピーダンス電圧の約2倍)を印加して負荷損失を供給する。この場合、内鉄形変圧器では漂遊負荷損が通常時以上に増加するので注意が必要である。

第1図 単相変圧器2台による返還負荷法試験第1図 単相変圧器2台による返還負荷法試験

(2) 単相変圧器3台の場合:変圧器を第2図に示すように高圧及び低圧の各巻線をそれぞれΔ結線する。次に低圧側から三相定格電圧・定格周波数で励磁して無負荷損を供給する。そして高圧側のΔ接続の一端を開いて巻線内に定格負荷電流を流すに十分な電圧(変圧器1台の高圧側から測ったインピーダンス電圧の約3倍)を印加して負荷損失を供給する。この試験も内鉄形変圧器では漂遊負荷損が通常時以上に増加するので注意する。

第2図 単相変圧器3台による返還負荷法試験第2図 単相変圧器3台による返還負荷法試験

Y-Y結線、Y-Δ結線の変圧器が2台以上ある場合には第3図に示すように補助変圧器を用いて試験を行う。

第3図 単相変圧器3台による別の返還負荷法試験第3図 単相変圧器3台による別の返還負荷法試験

(c) 等価負荷法(短絡法)

巻線の一方を短絡して定格周波数の電源によって他方の巻線に過電流を流し、無負荷損と75℃に換算した負荷損の和に等しい損失を供給したときの最高油温上昇を測定して平均油温上昇を測定する。

次に定格電流を1時間通電した後、抵抗法によって巻線平均温度を測定する。

等価負荷法は最初の試験で測定した平均油温度上昇値に次の試験で測定した巻線平均温度と油平均温度との差を加え、その値を定格に対する巻線温度上昇とする。

等価負荷法において負荷損だけで全損失を供給できない場合は次の方法による。

  1. 全損失の80%以上が供給できる場合
    油温度上昇は原則として損失の0.8乗に比例して増減するものと考え、供給損失に応じて油温の補正をする。
  2. 供給損失が全損失の80%以下で、かつ冷却面積を任意に変えることができる場合
    変圧器の冷却面積を供給損失の全損失に対する割合に減少させる。
    ただし、冷却面積を変える場合、冷却面積は供給損失の全損失に対する割合に応じて減少させるが、誤差が生ずるおそれがある。このため、実面積に適当な補正を施して有効面積を減少させる。

(d) タップ差を利用する場合

タップを有する変圧器がある場合、2台の変圧器を並列に接続し、タップ差電圧を2台の変圧器におけるインピーダンス電圧の和に等しくなるように調整する。このとき、2台の変圧器間には循環電流が流れるので、この循環電流によって全負荷電流を流して温度上昇試験を行う。

Δ—Δ結線の内鉄形三相変圧器を単相変圧器3台と同じ方法で行う場合は、漏れ磁束によって漂遊損失が増大するので全負荷損を所要値に保って油温上昇を求める必要がある。

また、タップ差を利用する場合、インピーダンス電圧が大きい変圧器では、タップ差を大きくしなければならないが、このとき一方の変圧器が過励磁になるおそれがあるので注意する。

(2) 試験時間

3時間経過しても温度変化が引き続いて1時間当たり1℃以内になったとき試験を終了し、試験時間最後の測定値から最終油温度上昇を決定する。