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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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PM同期モータについて 天野技術士事務所 天野 尚

PM同期モータは電機子巻線を固定子、回転子(ロータ)に永久磁石を使用した回転界磁形のモータをいい、永久磁石式モータ、磁石式同期モータなどとも呼ばれている。界磁電流が不要なため界磁損失がなく、本質的に低損失・高効率である。従来からACサーボなどの小容量モータに多く採用されているが、最近は省エネルギー機器としてより大型のモータにも採用される傾向にある。
 表面磁石構造の同期モータ(SPMSM)と埋込磁石構造の同期モータ(IPMSM)に大別され、ここでは両構造の概要とIPMSMの詳細な特性について解説する。
※テキスト中の図はクリックすると大きく表示されます

01.基本構成

 直流モータは界磁用の永久磁石が固定子に、電機子巻線が回転子に配置される回転電機子形であるが、PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor)は永久磁石を回転子に、電機子巻線を固定子に設けた回転界磁形の構成である。
 回転子はけい素鋼板から成る鉄心とその中に配置された永久磁石から成る。永久磁石の配置から、回転子の表面に永久磁石を張り付けた表面磁石構造の同期モータ(SPMSM:Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)と回転子の内部に永久磁石を埋め込んだ埋込磁石構造の同期モータIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)に大別される。第1図に代表的な回転子構造を示す。
 ここで、回転子の磁極の軸を図のように、磁極がつくる磁束の方向(永久磁石の中心軸)をd軸とし、それと電気的、磁気的に直交する軸(永久磁石間の軸)をq軸に設定する。


02.マグネットトルクとリラクタンストルク

 IPM同期モータでは永久磁石によるトルクのほかにリラクタンストルクが発生する。第2図は固定子巻線電流による回転磁界と回転子の位置を表現している。
 図(a)はマグネットトルクを、図(b)はリラクタンストルクの発生状況を示す。永久磁石の透磁率は真空中の透磁率とほぼ等しいため、永久磁石の部分は磁気的にエアギャップと等価になる。そこで図(b)では埋込磁石の影響を実効的なけい素鋼板の形状に変形し、d軸側を磁石に相当する分だけ縮小して示す。
 マグネットトルクは、図(a)に示すように回転磁界の極と回転子の永久磁石の磁極との吸引及び反発によって発生する。
 リラクタンストルクは固定子の回転磁界による極と回転子の突極との吸引力だけによって生ずるトルクで、図(b)ではq軸が固定子磁界のS極に吸引される。これは磁路の磁気抵抗(リラクタンス)が小さくなる方向であって、回転子の極のS、Nに関係していない。


03.突極性とインダクタンス

 第3図は4極の回転子の場合で、d軸、q軸電流と鎖交磁束を示す。
 図(a)ではd軸電流 formula001formula001 による鎖交磁束 formula002formula002 は、透磁率の低い磁石が途中にあるために制限される。図(b)ではq軸電流 formula003formula003 による鎖交磁束 formula004formula004 は、逆に透磁率の高いけい素鋼板を通るので大きくなる。すなわち、d軸の磁気抵抗がq軸のそれより大きく、インダクタンスでは formula005formula005 である。
 この2個のインダクタンスの比 formula006formula006   を突極比と呼び、1より大きな値である。一方、SPM同期モータでは formula007formula007 であり、突極比は1である。


04.基本特性式

 IPM同期モータの解析用モデルを第4図に示す。
 固定の電機子の座標軸をα、β軸とし、回転子の座標軸d軸、q軸を角度 formula008formula008 、角速度 formula009formula009 として設定した。簡単のために回転が一定の定常状態を扱うことにする。この条件では、同期モータなので formula010formula010 は回転磁界 formula011formula011 の速度に等しく、 formula012formula012 はd-q座標系では静止したベクトルになる。
  formula013formula013 でd軸、q軸成分を表し、 formula014formula014 をつくる電流を formula015formula015 とする。そこで、d軸インダクタンス formula016formula016 とq軸インダクタンス formula017formula017 によって formula018formula018formula019formula019 が成り立つ。
なお、以後の解析では電流ベクトルの方向を電流がつくる鎖交磁束の方向として扱うこととする。これによって、ベクトル的に formula020formula020 の表記が可能になる。
 永久磁石の磁束 formula021formula021 はその方向がd軸なので、d軸成分が formula021formula021 でq軸成分は直角なのでゼロである。同じ理由で両軸間に相互インダクタンスはない。
 以上からd-q座標系の磁界を formula024formula024 ;d軸成分磁束  formula025formula025 ;q軸成分磁束としてまとめると、
formula023
formula023
になる。
 これは電機子のコイルをd-q座標に投影したことになる。コイルの抵抗を formula026formula026 とし、各端子電圧を formula027formula027formula028formula028 とすると電圧の方程式は次のようになる。
formula029
formula029
 (2)式の第2項の時間微分を考える。第5図に回転している座標系上の formula030formula030formula031formula031 の様子を示す。
 回転により formula032formula032formula033formula033 の絶対値は変化しないが、 formula034formula034 の方向変化によって、 formula035formula035formula036formula036 の結果ベクトルが発生する。
 変化分の絶対値について調べると、
formula037
formula037
formula038
formula038
である。方向については、 formula039formula039 →0の極限を考えると、 formula040formula040 はq軸方向に、 formula041formula041 は−d軸方向に向かっている。
 以上をまとめると、
formula042
formula042
となる。これは固定子巻線の中を磁束が回転することによる起電力であり、速度起電力と呼ばれている。
 これを電圧の式に代入し、d軸、q軸で整理すると、
formula043
formula043
となる。第6図に(6)、(7)式をベクトル表示する。
 設定要件から永久磁石の磁束 formula044formula044 はd軸上にある。また、回転磁界 formula045formula045 及び formula046formula046 とq軸との位相差をβとする。鎖交磁束 formula047formula047 を電流とインダクタンスで表すと formula048formula048 であり、 formula049formula049 との合成が回転子上の総合磁束 formula050formula050 となる。
 (5)式に示すように速度起電力は磁束に対して90°の進み位相ベクトルを formula051formula051 倍したもので、 formula052formula052formula053formula053formula054formula054 であり、これらの総和が formula055formula055 である。 formula056formula056 に電機子巻線抵抗の電圧降下 formula057formula057 を加えたものが端子電圧 formula058formula058 になる。
 トルクはフレミングの左手の法則からベクトル積 formula059formula059 であるが、回転子に働くトルクは電機子の反作用なので formula060formula060 になる。更に極数対の formula061formula061 倍して formula062formula062 の計算になる。
 ベクトルの向きに注意してベクトル積を計算すると、
formula063
formula063
となり、更に formula064formula064formula065formula065 を代入して、
formula066
formula066
となって電流 formula067formula067 と位相角βで表現できる。
 (9)式の右辺第1項はマグネットトルクを、第2項は突極性によって生ずるリラクタンストルクを表している。


05.電流位相角βと特性変化

 第7図に電流一定の状態で、電流位相角βを変化させたときのマグネットトルク formula068formula068 、リラクタンストルク formula069formula069 、全発生トルク formula070formula070 をグラフ化して示す。
 マグネットトルクはβ=0°で最大となり、β=180°でマイナス最大になる。一方、リラクタンストルクはβ=45°、−135°で最大、β=—45°、 135°でマイナス最大になる。その結果、全発生トルクは電流位相が0°<β<45°の範囲で最大で、135°<β<180°で負の最大トルクとなる。
 このようにβを変化する方式を電流位相制御といい、電流ベクトルを負荷条件に合わせて適切に選択することで、広い負荷範囲で高性能運転を可能にしている。


06.電流ベクトル制御方式の例

 IPM同期モータでは前述のように formula071formula071 とβを制御することで各種のモードの運転ができる。電流制御方式とその制御条件の例を紹介する。

(1) formula072formula072=0制御

 d軸電流を0に保つ制御で、電流ベクトル formula073formula073 は負荷状態に応じてq軸上を移動する(第6図を参照)。発生トルクは(9)式にβ=0を代入することで、
formula074
formula074
となり、トルクがq軸電流だけに比例する線形制御になる。
 SPM同期モータでは一般的な制御法であり、トルクの発生に寄与しないd軸電流を流さないため、同一トルクの条件では最小の電流となり、高効率運転になる。しかし、IPM同期モータではリラクタンストルクが利用できないので、必ずしも適切な制御とはいえない。

(2) 最大トルク電流制御

 同一電流に対して発生トルクを最大に制御する方法で、これは電機子電流に対して最も効率的にトルクを発生する条件になる。
 トルクの式(9)式をβで微分し、ゼロとした状態である。すなわち、
formula075
formula075
三角関数公式 formula076formula076 を代入して formula077formula077 の二次方程式を解くことで、
formula078
formula078
が得られる。これが最大トルクを与える電流位相角である。このようにβを制御することで最大トルク運転になる。

(3) 弱め磁束制御

 ベクトル図から分かるようにd軸の総磁束は formula079formula079 であり、d軸電流は永久磁石の磁束を減磁している。これは弱め界磁作用となり、総合磁束 formula080formula080 を減少させる。高速回転領域での誘起電圧の上昇を抑えてインバータの耐圧条件を緩和する制御として使用される。


07.三相電源への変換

前述の電流制御を実機に適応するには、 formula081formula081formula082formula082 の2相で考えてきた電機子電流を三相の formula083formula083formula084formula084formula085formula085 に変換してモータを制御する必要がある。 これらはDSPによる高速演算とインバータによって実施される。これについてはインバータによるベクトル制御の技術書を参照されたい。
参 考 文 献
  1. 武田洋次、松井信行、森本茂雄、本田幸夫:埋込磁石同期モータの設計と制御 オーム社刊
  2. 百目鬼茂雄:省エネ、高機能化へ高効率モータ技術 日刊工業新聞社刊
  3. (株)日立製作所総合教育センタ技術研修所編:わかりやすい小型モータの技術 オーム社刊
  4. 竹下隆晴、野村尚史、松井信行:電流推定誤差に基づくセンサレスブラシレスDCモータ制御 電学論D、115巻4号、平成7年
  5. 竹下隆晴、市川誠、李宙柘、松井信行:速度起電力推定に基づくセンサレス突極型ブラシレスDCモータ制御 電学論D、117巻1号、平成9年