
    
「工場又は事業場におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」(平成18年3月29日経済産業省告示第65号)の「5.放射、伝導、抵抗等によるエネルギーの損失の防止」の5-2(1)、⑤に三相交流電源に単相交流負荷を接続するときは電圧不平衡を防止するよう管理基準を設定することが規定されている。本講では、三相交流電圧(電流)不平衡率の計算・測定方法、不平衡の発生原因、改善対策などについて紹介する。  
  
    
    
     Update Required To play the media you will need to either update your browser to a recent version or update your 
Flash plugin. 
 
   
 
※テキスト中の図はクリックすると大きく表示されます

(a) 不平衡三相交流とは
  
第1図のような三相交流電圧(
Ea、
Eb、
Ec)が不平衡な場合や各相の負荷(
Pa、
Pb、
Pc)や負荷電流(
Ia、
Ib、
Ic)が異なるような三相交流回路のことを指している。
(b) 三相交流電圧・電流が不平衡となる要因
 負荷端の電圧・電流が不平衡となる要因としては、次のような理由があげられる。
- 線路こう長が長い配電線からの供給電圧が各相負荷の不平衡によって発生する。
 
- 高圧受配電設備の異容量V結線変圧器などのインピーダンスのアンバランスと不平衡三相負荷によって電圧不平衡率を大きくする。
 
- 使用設備の著しい単相負荷の不平衡によって発生する。
 
 このように主な一次原因は負荷の不平衡に起因している。
(c) 三相交流電圧(電流)の対称分と三相交流電圧(電流)不平衡率
  三相交流電圧不平衡率とは、各相電圧の異なる度合いを表すものであるが、電気回路理論では正相電圧(電流)に対する逆相電圧(電流)の割合で定義されている。
  この説明はやや難しいが、第2図のように不平衡な三相交流電圧を一つの単相交流電圧(零相分)と相回転の方向が互いに異なる二つの対称三相交流電圧(正相分、逆相分)とに分けて解析する方法である。
   三相交流電圧不平衡率 = { 逆相電圧(
E2)/正相電圧(
E1) } × 100 [%]
 通常、平衡している三相交流電圧 6.6 kV や 200 V の値などは正相電圧値を指している。第2図から不平衡三相交流電圧
Ea、
Eb、
Ecを対称分電圧
E0、
E1、
E2で表すと、
 (a相電圧) Ea= E0+ E1+ E2        (1)
   (b相電圧)  Eb= E0+a2 E1+a E2   (2) 
 (c相電圧)  Ec=E0+aE1+ a2 E2    (3)
となる。
  次に(1)~(3)式を三元一次連立方程式とし、不平衡な三相交流電圧
Ea、
Eb、
Ecを既知数とし、三相交流電圧の対称分電圧
E0、
E1、
E2を未知数として解くと
 (零相電圧) E0 = ( 1 / 3 ) ( Ea+ Eb+ Ec)          (4)
(正相電圧)  E1 = ( 1 / 3 ) ( Ea+a Eb+a2Ec)     (5)
(逆相電圧)  E2= ( 1 / 3 ) ( Ea+a2 Eb+ aEc)     (6)
となる。
  次に(4)~(6)式で原電圧が三相交流平衡電圧の場合には、第3図に示すようになる。1相の電圧
E〔V〕として三相交流平衡電圧をベクトルで表すと、次のようになる。
 
   
     | Ea=E | 
     (7) | 
   
   
     | Eb=a2E | 
     (8) | 
   
   
     | Ec=aE | 
     (9) | 
   
 
 (7)~(9)式を(4)~(6)式にそれぞれ代入すると、対称分電圧は次のようになる。
  このように三相交流電圧が平衡電圧なときは、零相分電圧
E0及び逆相分電圧
E2は0で、正相分電圧 
E1は三相交流電圧の実効値
Eに等しくなる。これまでは三相交流電圧について説明を行ったが、電流の場合も同様に取り扱うことができる。
  すなわち、不平衡な三相交流回路の計算が対称分を用いると、単相交流回路及び正相・逆相の対称三相交流回路の計算に置き換えることができ至便である。
 

(a)	三相交流電圧(電流) 不平衡率の計算式
 三相交流回路での各線間電圧を
Eab、 
Ebc、
E caとすれば、三相交流電圧不平衡率
kは次式によって与えられる。
  
    | 三相交流電圧不平衡率 k = (E2 / E1 ) × 100 [%] | 
    (10) | 
  
 ただし、
E1=正相電圧
E2 = 逆相電圧
正相電圧・逆相電圧は次式から算出することができる。
 ただし、
Es= (
Eab+ 
Ebc+ 
Eca) / 2
 (10)~ (12) 式による三相交流電圧不平衡率
kの動力200V回路での計算例を示すと第1表のようになる。
 三相交流電流不平衡率の場合についても電圧→電流にそれぞれ置き替えることによって、同様に取り扱うことができる。
(b) 三相交流電圧不平衡率の測定器
 近年、負荷端の三相交流電圧が不平衡になり、3Eリレーの動作などによって電気機器の使用に支障をきたした事故事例に遭遇している。
 従来から三相交流電圧不平衡率を測定・把握することはやや難しい面があった。三相交流電圧不平衡率は夕刻や夜間などに大きくなる傾向があり、三相交流電圧の測定が必要であっても、現場でその計算を要する場合に、スポット計算は可能でも連続測定となると計算が煩わしく、市販されている測定器には、特殊継電器試験の一試験機能として設けられているものはあったが、かなり高価で実用的なものが少なかった。
 したがって、電気事故時に三相交流電圧不平衡率の値を把握しにくい実情にあった。このように電気事故時に原因分析用にまた三相交流電源の電圧不平衡率が許容範囲にあるかを容易に測定できるものが求められていた。
 このようなニーズを踏まえて、現場で使用し易いよう携帯型で操作が簡単、かつ低廉な「三相交流電圧不平衡率計」(第4図)が実用化されている。
 
 三相交流電圧不平衡率の判断基準ははじめに紹介したように「工場又は事業場におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」の中に三相交流電源に単相交流負荷を接続するときは電圧不平衡を防止するよう管理基準を設定することが規定されている。
 したがって、次の状況から三相誘導電動機の特性にもよるが、三相交流電圧不平衡率が3%程度を超過する場合は、なんらかの対策を施すことが適当である。
- 一般需要家受電点での三相交流電圧不平衡率の許容基準は特に示されていないが、交流式電気鉄道の単相負荷による三相交流電圧不平衡の障害防止対策として、電気鉄道の受電点では3%を限度としている(電気設備技術基準解釈 第212条)。
 
- 誘導電動機の三相交流電圧不平衡による温度上昇試験の結果によれば、三相交流電圧不平衡率が5%以下であれば、おおむね製作上の裕度の範囲内とされている(電気鉄道ハンドブック)。
 
- 誘導電動機の正常運転時の最高許容温度に達する三相交流電圧不平衡率(NEMA MG1式)の平均値は2.8%以下としている。
 
- 誘導電動機の長時間の寿命を維持するためには、1%以下(NEMA MG1)が妥当としている。
 
- 三相誘導電動機の電圧不平衡率は5~6%程度含まれていると3Eリレー(電流不平衡率35%設定)の欠相機能が動作し保護するように設定されている。
 
  
これによって3Eリレーが電圧不平衡によって動作したかどうかを推定できる。
(注) 電気回路理論での「三相交流電圧・電流不平衡率」は次に示す内線規程(JEAC8001-2011 1305-01)  の「設備不平衡率」とは定義が全く別のものである。参考のために次に示す。
*	内線規程の設備不平衡率
高圧受電設備の場合
◎	設備不平衡率は原則30%以下
  
    | 設備不平衡率 | 
    = | 
    { (各線間に接続される単相負荷一相設備の容量の最大、最小との差〔V A〕)/
            (総負荷設備容量の1/3〔V A〕)} ×100 〔%〕 | 
  
ただし、定格容量100kVA以下の単相変圧器の場合、三相負荷容量の最大と最小との差が100kVA以下の場合などはこの限りではない(内線規程JEAC8001-2011  1305‐1)。
 
 

(a) 三相交流電流不平衡による障害
 三相交流電流不平衡電圧による影響のうち、特に三相誘導電動機が大きいのでこれについて説明する(第5図)。
 先にも説明したように、三相交流不平衡電圧は零相分
E0、正相分
E1、逆相分
E2の三つの対称分に分解することができる。
 この中で三相誘導電動機は中性点が非接地なので零相分の影響はなく、正相分と逆相分だけが流れる。
 正相電圧は正相電流を流し、これによる回転磁界は回転方向と同方向の正相トルクを生ずる。一方、逆相電圧は逆相電流を流し、これによる回転磁界は回転方向と反対方向の逆相トルクを生ずる。
 したがって、三相交流不平衡電圧が加わると、電動機から発生する正味トルクは正相トルクと逆相トルクとの差となる。
 すなわち、正相電流によるトルクに対し、逆相電流によるトルクはブレーキとして作用し、三相誘導電動機の過熱、焼損等の障害を生ずる。このため3E(過電流、欠相、逆相)リレーが動作して停止することがある。給水ポンプ場などでの事故事例を耳にしている。
 正相電流による回転磁界に対し、滑り
sで回転しているとき、逆相電流による回転磁界に対しは、滑り2-
sで回転していることになる。
 従って、三相誘導電動機の正相インピーダンス
Z1、逆相インピーダンス
Z2は励磁回路分を無視すると、
  
    | Z1 = (r1+r2/ s ) + j ( x1+x2) | 
    [Ω] | 
  
  
    | Z2 = { r1+r2 / ( 2 - s ) } + j ( x1+x2) | 
    [Ω] | 
  
正相電流
I1[A]、逆相電流
I2[A]は、
I1 = 
E1 / 
Z1[A]、
I2 = 
E2 / 
Z2 [A]となる。
一例として、
r1 = 0.85Ω、
r2 = 0.47Ω、
x1 + 
x2 = 1.66Ω、
s = 0.05 で運転している場合、電動機の正相インピーダンス、逆相インピーダンスは、
Z1 = 10.38Ω、
Z2 = 1.94Ωとなる。このように正相インピーダンスに比べて逆相インピーダンスは非常に小さく、
Z2 / 
Z1 = 0.191となり、正相電圧に対して逆相電圧が1%程度でも、正相電流に対する逆相電流は5.2%になる。
  三相交流電流不平衡率は三相交流電圧不平衡率に比べて数倍になる。三相誘導電動機において、この傾向は、滑り
sが小さいほど大きい。三相交流電圧不平衡によって電流不平衡、温度上昇の増加、入力の増加、効率の低下、振動・騒音の増加等の現象が発生する。
(b)三相交流電圧不平衡率による改善対策
 三相交流電圧不平衡率
kが許容範囲を超える場合、その対策としては次のような事項をあげることができる。
  - 
受電電圧がもともと不平衡の場合は電気事業者に相談する。
 
- 
高圧受電設備に異容量V結線変圧器などがあり、電圧不平衡が拡大している場合は、変圧器の相を入れ替えるか、三相変圧器に取り替える。
 
- 
著しい不平衡負荷によって、電圧不平衡が大きくなっている場合は、単相負荷を入れ替えによって各相バランスを図る。ただし、一つの対策だけでは解決できない場合もあり得るので、複数の改善方法について検討する。
 
 今後、電気の質の一要素として、三相交流電圧不平衡率についての関心が高まるものと予想される。
 定期的に三相交流電圧不平衡率
kの測定を行い、適切に管理を行うことが電気保安の確保、電気使用合理化面から極めて大切である。