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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
中性点接地方式 片岡技術士事務所代表 片岡喜久雄

電力系統における中性点接地の目的、各種接地方式の特徴及び適用標準について解説する。
 

中性点接地とは

(1)中性点接地の目的

 電力系統、特に特別高圧系統では電源変圧器をY結線として、その中性点を各種の方法で接地しています。これは中性点を接地していない場合発生するさまざまな障害を軽減するためです。
 その主なものは、次のとおりです。

  1. 1線地絡時に健全相の電圧が上昇しますが、これを抑制して、線路や機器の安全を確保し、かつ、絶縁レベルの低減を図って系統全体としての経済性を向上させます。
  2. 保護継電器の動作を迅速に、かつ確実にして、事故範囲の波及拡大防止や設備損傷の局限化とともに、1線地絡時の系統の安定度確保、通信線への誘導障害の低減、保安の確保などを図ります。
  3. 消弧リアクトル接地方式では、1線地絡時の地絡アークを自然消滅させて線路を遮断せずにそのまま電力の供給を継続します。

(2)中性点接地方式の適用標準

 中性点接地方式の適用は、系統の電圧や、系統を構成する送電線が架空線主体か、地中線が主体か、によって決められます。
 これは1線地絡時の異常電圧の健全相に対する割合が同じでも、超高圧系統ではその絶対値は極めて大きな値であり、低減対策の系統全体に及ぼす効果は極めて大きなものになるからです。
 また、架空線と地中線とでは電気定数に大きな相違があること、事故時の現象や事故点の様相にも大きな相違があるためです。
 さらに、電路の所要絶縁耐電圧は、使用電圧が同一でも中性点接地方式により大きく異なります。技術基準で定められている電路の保持すべき耐電圧も、直接接地超高圧系統では最高使用電圧の0.64倍、非接地式配電系統では1.5倍になっています。
 第1表に中性点接地方式の適用標準を示します。


各種中性点接地方式の特徴

(1)直接接地方式

 電源変圧器の中性点を直接に導体で接地するもので、187kV以上の超高圧と呼ばれる電圧系統では全てこの方式が採用されています。この方式では系統の中性点が常時確実に大地と接続されていることから、中性点の電位は常にほぼ一定で、1線地絡時の電位上昇は最小限に抑えられます。1線地絡時の健全相の電圧上昇が30%以下になる中性点接地方式を有効接地と呼ぶことがありますが、直接接地がこれに当たります。
 このため、系統内の機器、線路の絶縁低減の割合は大きく、その経済的な効果は莫大であり、全ての超高圧系統に採用される所以です。特に変圧器では段絶縁といって線路側端子から中性点にかけて絶縁の程度を低減させることができます。
 しかし、1線地絡時は地絡相の一相短絡になり、故障点には数万Aの地絡電流が流れ、通信線に発生する電磁誘導電圧が高くなり易くなります。また大電流が流れるため、地絡時の過渡安定度が他の方式より低下します。
 このため運用上の対策として系統内の変圧器群の一部を非接地とすることがあります。
 しかし、地絡電流が大きいことは鋭敏な保護継電器が適用可能であり、これにより数サイクル以内で確実に故障を遮断することで、誘導障害の継続時間を極度に短縮して実害を大きく低減しています。

(2)抵抗接地方式

 この方式は、系統の中性点を抵抗器を通して接地するもので我国では22kV~154kVまで最も一般的に広く採用されています。これは地絡電流を抑制して通信線への誘導障害などを防止することが目的です。中性点抵抗の抵抗値は100Ω~900Ω程度で、1線地絡時の中性点電流が100A~500Aくらいになるように整定されます。地絡故障点にはこの電流と系統の対地充電電流のベクトル和が流れます。
 地絡電流を抑制するため、地絡継電器の事故検出機能は直接接地方式よりも低下します。これを補うため地絡継電器として零相電圧と地絡電流を組み合わせて動作する方式のものが多く使用されています。
 抵抗接地方式は直接接地方式と比べて1線地絡電流が小さく、誘導障害は少ないが1線地絡時健全相の電圧上昇は大きいので、線路や機器の絶縁レベルの低減はできません。

(3)消弧リアクトル接地方式

 原理は中性点と大地の間にリアクトルを挿入し、そのリアクタンスを系統の対地静電容量と並列共振させることによって零相インピーダンスを無限大にして、1線地絡時に地絡故障電流を流さないようにするものです。このリアクトルを消弧リアクトルといいます。
 実際には系統の対地静電容量と完全に共振させず、必ず過補償と言って1線地絡時の消弧リアクトル電流が系統の対地充電電流より数%大きくなるように設定します。この系統に地絡事故が発生すると地絡相に蓄積されていた電荷は大地へアーク放電するが、その後地絡電流はきわめて小さく制限され、自然消弧します。地絡電流が誘導性になっていることで、一旦消弧後の電圧回復が緩やかであることも消弧性を高めています。
 この接地方式はほとんどか架空送電線だけで連絡構成されている系統に適用されます。それは架空送電線では1線地絡が事故原因の大きな割合を占め、しかも地絡事故は他物の接触、雷撃によるアーク閃絡など一時的なものが多く、一旦消弧させれば絶縁が回復することが多いからです。
 地絡保護継電器の動作は各接地方式の中で最も悪く、消弧リアクトル動作後、数秒間事故が解消しない場合は並列に設置した抵抗器を投入し、一時的に抵抗接地方式として保護継電器を動作させています。
 この接地方式では通信線などへの誘導障害は小さいが、1線地絡時の健全相の電圧上昇は抵抗接地方式と同程度であり、系統の絶縁の低減はできません。
 また、線路停止など系統条件の変化に応じて消弧リアクトルのタップを切り替える必要があります。さらに対地充電電流とリアクトル電流との共振に近い状態で運転するため、異常電圧の発生の機会が他の接地方式より多く、この対策として並列抵抗器を常時投入しておき、1線地絡発生時にこれを開放して消弧リアクトル接地方式にすることが行われています。

(4)補償リアクトル接地方式

 大都市では66kV~154kVの地中送電線(電力ケーブル)で電力系統を連絡構成しています。地中送電線は架空送電線に比べて静電容量が数10倍と大きいので、中性点接地抵抗器で地絡時の中性点電流を制限しても地絡事故点には 大きな充電電流がこれにベクトル的に加わります。
 このため地絡電流が大きくなり、誘導障害のおそれが生じるほか、地絡瞬時に対地静電容量の影響を受けて大きな過渡突入電流が流れ、保護継電器の動作特性を低下させたりします。この対策として中性点接地抵抗器と並列にリアクトルを設置して地絡電流中の充電電流分を低減しています。
 この接地方式を補償リアクトル接地方式と呼びます。特に大都市では66kV~77kV地中線が配電用変電所や、大口需要個所への送電線として大量に布設されているため、地絡電流中の充電電流分は大きな値になります。
 このため、この接地方式の66kV~77kV地中線系統の電源変電所には定格電流250A~500Aの補償リアクトルが普通母線ごとに設置されています。

(5)非接地方式

 わが国では6.6kVの配電系統は全てこの方式によっています。1線地絡時の健全相の電圧上昇や間歇地絡などによる異常電圧の割合は、中性点接地方式の中で最も高いのですが、系統電圧が低いことからその絶対値は小さいこと、また、この電圧階級では絶縁強度は機械的な所要強度から、基準絶縁強度より余裕のあることが多いこと、また、周密な市街地内に施設されることから通信線への誘導障害防止や保安確保を優先するためです。
 非接地方式では地絡電流は、ほぼ系統の対地充電電流だけになります。 さらにこの接地方式では電源変圧器の中性点を引き出す必要がないため、△結線にできるので故障修理などのときV結線で運転できます。
 非接地方式と言っても完全な非接地ではなく、系統内に地絡事故が発生したことの検知を主目的に電源変電所の母線に設置する接地電圧変成器(EVT)の三次開放△端子に一次側中性点~大地間換算で10kΩ程度になるような値の限流抵抗を接続しています。これにより完全地絡時には事故点に有効電流が400mA程度流れます。
 事故電流が小さいため、地絡保護継電器には接地電圧変成器で検出した零相電圧と零相変流器からの零相電流による地絡方向継電器が普通使用されます。
 受電端などでは接地電圧変成器はコンデンサ型を使用し、また、条件が許せば 零相電流だけによる保護も可能です。