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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
データ通信の標準化 長門国際特許事務所 山崎靖夫

データ通信の標準化が行われたおかげで、インターネットに代表されるようなITが発展したのである。今回は、コンピュータネットワークを構築するにあたって必要とされるデータ通信の標準化の基礎的事項他について解説する。
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01.標準化の背景

 コンピュータが登場したころは、他のコンピュータと接続されることなく、もっぱら単体で処理が行われてきた。その後、他のコンピュータとデータをやりとりしながら処理を行うようになりコンピュータ間でデータ通信が行われるようになった。コンピュータ間でデータ通信が行われ始めた頃は、同一メーカー製のコンピュータ間での通信であって、異なるメーカーのコンピュータ間ではデータ通信が行えないという問題が散見されるようになった。これは、メーカーが異なればデータ通信の方法や手順が異なることに由来する。そこでデータ通信の標準化が必要となったのである。
 現在ではデータ通信の標準化が行われたおかげで、インターネットに代表されるようなITが発展したのである。今回は、コンピュータネットワークを構築するにあたって必要とされる標準化の基礎的事項について解説する。


02.ネットワークアーキテクチャとは

 複数のコンピュータ同士を相互接続するべくコンピュータネットワーク(コンピュータ通信網)が構築された。このコンピュータネットワークとしては、通信回線とこの通信回線に接続するための接続装置などのハードウェアのほか、通信制御を行うソフトウェアが必要である。データ通信の標準化を行うには、これらの機能を論理的に定義して、通信手順を体系的、かつ、統一的に規定する必要がある。これをネットワークアーキテクチャという。
 ネットワークアーキテクチャとして最初に登場したのは、IBMが1974年に発表したSNA(Systems Network Architecture)である。その後、1975年にDECがDNS(Digital Network System)、1976年にバローズ(現:UNISYS)がDNA(Decentralized data processing Network Architecture)を提唱し、翌1977年にはNTTがDCNA(Data Communication Network Architecture)を発表した。これらはデータ通信のネットワークを効率的に機能させるために必要な通信手順などを規定したものである。この通信手順などの規定のことをプロトコルという。プロトコルを言い換えれば、データ通信システムの構成要素間での情報交換について、その方法や書式(フォーマット)を決定する規約と定義することができる。
 ネットワークを経由してコンピュータ同士を相互接続するには、プロトコルに従った伝送制御手順を実行すればよい。しかしながら、前述したSNA、DNS、DCNAなどは相互に互換性がない。そのため、前述したようにコンピュータネットワークが拡大するほど異機種間の相互接続ができないという問題が顕著になってきた。このため国際的な標準化が進められることとなった。


03.データ通信手順の標準化

 コンピュータネットワークの拡大に伴って異機種間で相互通信ができないという問題を解決するため、ISO(国際標準化機構)とCCITT(国際電信電話諮問委員会)は、インタフェースの標準化作業を行った。その結果、1980年にOSI(Open Systems Interconnection:開放型システム間相互接続)基本参照モデルが規定化された。
 OSIは第1図に示すようにプロトコルを7つの階層(layer)に分けた規定である。OSIは、7階層のうち第1層から第4層までの下位4層には通信機能に関する規約を、第5層から第7層までの上位3層にはデータ処理に関する規約がまとめられている。

(1)物理層(physical layer)

 OSIの最下位層に位置付けられた物理層は、通信装置や通信端末あるいは通信回線などの媒体の物理的、電気的な規約を定めている。言い換えれば物理層は、データ通信に係るハードウェアの決まり事を定めたものといえる。具体的には、通信回線に接続するためのコネクタの形状や接続ピンの配置、電気信号の極性や電圧、電流などを規定している。
 物理層で扱う装置としては、データ端末装置(DTE:Data Terminal Equipment)やデータ伝送機能を有するデータ回線終端装置(DCE:Data Circuit-terminating Equipment)などがある。これらの装置に対してビット単位のデータ伝送を保証するための規約も物理層に規定されている。
 代表的な物理層の規格としてはRS-232C、RS-422やRS-485、X.21などのDTEとDCE間のインタフェースに関する規定がある。

(2)データリンク層(data link layer)

 同一のネットワークに接続された複数のコンピュータや端末装置などの集まりをノードという。このノードには、ネットワークの交換機能や伝送機能、あるいはネットワーク管理機能などを有する装置も含まれる。このようなノード間をつなぐ通信回線をリンクという。この層の名称となっているデータリンクとは、隣接するノード間に設けられたデータ回線のセットのことをいう。
 データリンク層は、隣接ノード間の伝送制御手順(リンクプロトコル)を規約に定めている。またデータリンク層は、通信する相手方がデータ交換可能かどうかを確認する手段と、データ通信を行っているときにデータの誤り(ビット誤り)を生じたときの対処方法および送受信のタイミングなどについても定めている。この層は、さらに隣接ノード間でビット列から構成される情報をフレームと呼ばれるデータ単位で扱い、このフレームを確実に転送することを保証する役割も担っている。このため、ビット誤りの検出、回復、フロー制御や順序制御などの機能もデータリンク層で規約化されている。
 この層のプロトコルとしては、基本形データ伝送制御手順(basic mode data transmission control procedure)やHDLC(High level Data Link Control)などがある。
 なお、LAN(Local Area Network)のMAC(Media Access Control)プロトコルはこのデータリンク層に相当する。

(3)ネットワーク層(network layer)

 この層には、データ通信端末からネットワークに対して接続の確立、開放を依頼する接続制御手順やネットワークでのデータ伝送制御手順などが規約化されている。
 その他、ネットワーク層には、異なるネットワーク間の接続手順(ルーティング)なども規約により定められている。
 代表的なネットワーク層プロトコルとしては、ITU-T勧告X.25のレイヤ3プロトコルと、TCP/IPのIPプロトコル(Internet Protocol)がある。IPプロトコルは、インターネットやLANの標準プロトコルとして有名である。

(4)トランスポート層(transport layer)

 この層には、データ通信を行う2つの端末間(エンドプロセス間)におけるデータ交換を保証するための規約が定められている。またトランスポート層では、下位層のネットワーク層から提供されるサービスを補完してより高い伝送品質の保証も行うための規約化がなされている。

(5)セッション層(session layer)

 この層は、アプリケーション層がやりとりする対話的なデータ伝送の構造に着目した制御機能を実行する規約がなされている。セッション層は、具体的にはデータ伝送を行うために基本となる論理的通信路を提供し、その通信路上での送信権制御や通信モード(全二重、半二重など)の制御、同期などの制御を行う役割を担う。
 セッション層のプロトコルとして代表的なものには、X.225セッションプロトコルがある。

(6)プレゼンテーション層(presentation layer)

 この層は、セッション層の規約に基づいてアプリケーション層が授受するデータの表現方法が規約化されている。また符号や文字セットの変換、データの形式の変更などもプレゼンテーション層の役割である。

(7)アプリケーション層(application layer)

 アプリケーション層は、各種の適用業務に対する通信の機能が規約化されている。この層は、利用者がOSI環境にアクセスするための手段を提供し、情報を交換するためのアプリケーションプロセスの窓口的な意味合いをもっている。具体的にこの層は、ファイル転送、ジョブ転送やファイルアクセス手順、メール転送手順などを定めている。


04.OSIの実例

 OSIの実例として工場などの量産ラインで用いられている標準プロトコルであるMAP(Manufacturing Automation Protocol)を取り上げる。

(1)MAP開発の背景

 米国の自動車メーカーであるGM(ゼネラル・モーターズ)社は、自社工場内での生産ラインの自動化を進め、生産効率を向上させて高品質の維持及び価格競争に生き残るためのコストダウンの努力をしてきた。このため、各種の自動工作機械を生産ラインに投入した。しかしながら、これらの自動工作機械をネットワークに接続しようとしても、それぞれの機械毎の伝送制御手順がまったく異なっており、相互接続できないという問題が生じた。そこでGMは工場内の自動工作機械やコンピュータを相互接続できるようにOSIに準拠する通信プロトコルを開発し、1984年にMAPバージョン1のプロトコルをまとめあげた。

(2)MAPのプロトコルスタック

 MAPは第2図に示すようにOSIの7層すべてに完全準拠したフルMAPと、第1層、第2層および第7層だけを持つ簡易版のミニMAPとが規定化された。
 MAPは、伝送データの量が増加してネットワークの負荷がピークになってもリアルタイム通信が可能となるように考えられている。また、MAPは、製造機器を監視・制御するために国際標準化された通信規格であるMMS(Manufacturing Message Service)が適用されている。このMMSはロボットや工作機械を制御するための情報をメッセージとして表現したものである。


05.データ通信に用いられる中継装置とOSIの関係

 複数のネットワークを相互接続するため、OSI基本参照モデルに基づいた各種の装置が用意されている。ここでは、よく使われる代表的な中継装置について解説する。

(1)リピータ

 比較的規模の小さなネットワークでは問題ないが、伝送距離が長くなると伝送ケーブルによって伝送される電気信号や光信号などの信号が伝送ケーブルの損失の影響を受けて弱くなる。さらには、外来雑音(ノイズ)などの影響を受けることによって伝送信号が劣化してしまう。このため、弱まった電気信号や光信号などを増幅して中継する装置が用意されている。この装置をリピータという。

(2)ブリッジ

 リピータは単なる信号増幅器であるが、ブリッジは物理層の形態が異なるネットワーク同士やアクセス方式の異なるネットワーク同士を相互接続するために用意された中継装置である。ブリッジで接続されたネットワーク同士は論理的に一つのネットワークと見なすことができる。
 ブリッジを用いることで、異なるネットワーク間に不要な伝送データを送出しないように制御することができ、ネットワークシステム全体を流れる情報量を減らすことができるのでネットワークの効率向上にも寄与する。このため、ある程度以上の大きなネットワークを小さなネットワークに分割して、相互間をブリッジで接続する構成を取ることがある。

(3)ルータ

 OSI基本参照モデルの第3層のネットワーク層におけるデータ通信の中継を担う中継装置である。ルータは第3層以下のプロトコルが異なるネットワーク同士でも、ルータ内でそれぞれのネットワークに適合するようにプロトコル変換を行うため相互接続することが可能である。またルータは、必要に応じて伝送されているデータの内部に含まれるアドレス情報を基に中継経路を自動的に選択制御するルーティングを行う。

(4)ゲートウェイ

 OSIの第1層から第7層までのすべてのプロトコルが異なるネットワーク同士を相互接続するための装置である。