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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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理論計算の落とし穴(6)ベクトルオペレータ 東京電気技術高等専修学校 講師 福田 務

電気理論や電力などの計算問題は、電気工学の法則の意味を理解し、幅広く数学の知識を応用して解かなければならないが、試験会場ではあまり時間をかけることはできないため、方針を素早く決定し要領よく計算する必要がある。しかし、その方針次第で落とし穴にはまり、誤答したり時間がかかって解答が求まらないことがある。このシリーズでは、このような落とし穴の例をいくつか取り上げ、計算運用の上手なテクニックを学ぶ。今回は、ベクトルオペレータについて解説する。

1.ベクトルオペレータはベクトルの運転手

 第1図は三相交流電流のベクトル図を示したものであるが、それぞれのベクトルは、 formula001 formula001 formula002 formula002 より120°位相が遅れ、 formula003 formula003 formula004 formula004 より120°( formula005 formula005 からは240°)遅れており、お互いの関係は第2図のようにして知ることができる。

 次に第2図のcosθjsinθの値を計算し、もっと具体的な数字を調べることにする。 formula006 formula006  また  formula007 formula007  であるから、

formula008
formula008

ということになる。そうすると、 formula009 formula009 formula010 formula010 より120°位相が進んでいるから、

formula011
formula011

になることが分かる。また、 formula012 formula012 formula013 formula013 より120°位相が進んでいるから、

formula014
formula014

となることが分かる。

第2図
第2図

 ここで formula015 formula015 とおくことにすると、 formula016 formula016 formula017 formula017 の関係は次のとおりになる。

  formula018 formula018    formula019 formula019    formula020 formula020

 このように三つの電流のベクトルの関係を、実に簡単な複素数を使って表すことができてしまうので、この式のaa2を作用子またはベクトルオペレータと呼んでいる。ちょうど単相交流回路でjがベクトルの位相を90°変化させる作用をするのと同様な意味で、三相交流回路ではベクトル formula021 formula021 に順々に formula022 formula022 を掛けることによって、大きさは formula023 formula023 と同じで、ただ120°位相が進むことになる。 formula024 formula024 をベクトルオペレータと呼ぶのは、第3図のようにベクトルの運転手であるというイメージからきている。

 さて、三相交流の三つのベクトルはベクトルオペレータを使えば、簡単に表現できることを知ったが、では formula025 formula025 をどのような方法で問題の解答に生かしていけばよいか、具体的に調べることにしよう。

2 ベクトルオペレータaの使い方

 第4図の平衡三相回路では中性線に電流が流れないので、このようにわざわざ中性線を書き込むことはないが、初めにベクトルオペレータaを使って中性線電流が0になることを確認してみよう。

 〔問題〕 次の三相平衡回路における電流I0を求めよ。

 〔正解〕

  formula026 formula026  すなわち、各相を流れる電流はいずれも8Aになる。したがって、中性線を流れる電流 formula027 formula027 は、

  formula028 formula028 formula029 formula029 formula030 formula030

であるから、

formula031
formula031
formula032
formula032

 〔答〕 電流 formula033 formula033 formula034 formula034A

 〔落とし穴〕 

   formula035 formula035 formula036 formula036 formula037 formula037 とおき、

formula038
formula038

 この場合、答は合っていても、 formula039 formula039 formula040 formula040 であることを間違えてはいけない。 formula041 formula041 formula042 formula042 がどのベクトルにかかっているかを、しっかりつかんでおくことが大切である。

3 不平衡回路でのaの活用

 次の第5図の問題は formula044 formula044 の力で正解へ導いてくれる。前問とよく似ているが、ここでは負荷抵抗の値がそれぞれ異なる不平衡回路なので、発電機側で平衡三相交流を発電・供給していても、負荷側の電流の大きさは異なり、そのため中性線にも電流が流れてしまう。 formula045 formula045 を活用することで、この電流を求めることができる。

 〔問題〕 次に示す不平衡負荷回路における formula046 formula046 の大きさを求め、 formula047 formula047

  formula048 formula048 の位相差を求めよ。

  formula049 formula049 がどのベクトルにかかっているか、この問題でも間違えないように計算を進めないといけない。

 次のような手順で解答していく。

 ① まず formula050 formula050 の大きさを求める。

  formula051 formula051 A、  formula052 formula052 A、  formula053 formula053 A

 ②  formula054 formula054 formula055 formula055 を使って表現する。

formula056
formula056

 ③  formula057 formula057 を計算する。

formula058
formula058
formula059
formula059
formula060
formula060

 ④  formula061 formula061 の絶対値を求める。

formula062
formula062

 I 0 = 28A

 ⑤  formula063 formula063 formula064 formula064 との位相差(偏角)を求める。

  formula065 formula065  から θ=24°(三角関数表から)

 この問題では中性線が結ばれており、この中性線を流れる電流をベクトルオペレータ formula066 formula066 を用いて解いたが、三相の負荷インピーダンスが異なる不平衡回路で中性線が結ばれていない場合には、たとえ電源は平衡三相電圧であったとしても簡単に計算を進めていくことはできない。このような場合の formula067 formula067 の扱い方については別の機会に取り上げたいと思う。