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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
電磁誘導障害と静電誘導障害 東京電力(株)地中送電技能訓練センター 所長 大島 輝夫

高電圧の送電線に接近した電話線や片回線停止時の停止線に過大な電圧が誘起され、通信障害や危険電圧が生じたり、送電線下の歩行者に刺激を与えたりする現象を「誘導障害」と云います。これら、静電誘導と電磁誘導の2種類の誘導障害について解説します。

誘導障害の概念

a.静電誘導

 静電誘導は、第1図に示すように高電圧の送電線と対象誘電体(電話線、停止回線、線下の傘など)、大地間にそれぞれ静電容量があるため生ずるもので、送電線aと誘電体bの対地静電容量をa,b,ab間の相互静電容量をabとすれば、aの電圧に対して、bの電圧は、次式で表されます。
      (1)

b.電磁誘導

 

 電磁誘導は、送電線の発生する磁界と電話線、停止回線などが鎖交するために発生するもので、第2図に示すように送電線と電話線の相互インダクタンスを 〔H/km〕,送電線の電流を〔A〕,平行する長さを〔km〕とすると、誘起電圧は、次式で表されます。
  〔V〕 (2)
 (1),(2)式でわかるのは、静電誘導は送電線の電圧に比例し、電磁誘導は電流と平行長に比例することで、両者の特徴として重要です。


静電誘導障害とその対策

a.送電線下の静電誘導

 線下の静電誘導障害の程度としては、地表上1mにおける電界の強さで評価され、これまでの実験報告から、30[V/cm]以下でほとんど刺激を感じないため、技術基準上もこれによることとなっています。

 送電線の電線地上高と線下の地表上mにおける最大電界との計算例を第3図に示します。この電界線と直角方向への変化の様子を第4図に示します。この計算例のように大地が平面の場合は容易に計算できます。

b.通信線に対する静電誘導

 電気設備技術基準では、使用電圧60[kV]以下の場合、通信線のこう長12[km]ごとに静電誘導電流が2[μA]を、使用電圧が60[kV]を超える場合は、通信線のこう長40[km]ごとに静電誘導電流が3[μA]をそれぞれ超えないことと規定されており、同基準には、静電誘導電流の計算式が示されています。(解釈第52条参照)  

c.対策

  ① 送電線地上高の増加
  ② 送電線逆相配列の採用
  ③ 遮へい設備の設置
  ④ 対象物件の接地


電磁誘導障害と対策

a.電磁誘導によって通信線に誘起される電圧

 ① 異常時誘導電圧
送電線の地絡事故や断線事故などにより流れる零相電流によって生じる電圧であり、送電線接地方式や事故形態にもよりますが、大きな誘導電圧が発生します。
 ② 常時誘導電圧
常時負荷電流の各相(c)の不平衡、送電線と通信線の不整とによ る相互インピーダンス(c)のアンバランスなどによって生じる電圧です。
 ③ 誘導雑音電圧
送電線に流れる高調波に含まれる、おもに第3調波成分などの零相分によって生じる電圧です。

b.異常時誘導電圧(1線地絡故障)の求め方

 送電線に1線地絡故障が発生したときに、電磁誘導により通信線に発生する誘導電圧 [V]を表す式は、次のように求めることができます。
 電磁誘導障害は第5図のように原理的には相互インピ−ダンスを持つ電気回路で考えられ、閉回路の相互交さ磁束によって生じます。
 したがって、図のように 、の正方向を決めれば、通信線に生じる単位長当たりの誘導電圧は、
    
  ここで、両導体間の相互インダクタンスを [H/m]とすると、Mi を代入し、
    
これにsinωt を代入して、
       [V/m]
 次に、 l [m]を乗じ絶対値を求めます。  
   ∴  [V] が求まります。

 

また、三相送電線を考えると、各相の電線と通信線間の相互インダクタンスの相違を無視して、第6図のように、 とすると、
     
で表されます。ただし、上式の は零相電流を表します。   
 したがって、上式より電磁誘導は送電線の零相電流によって誘起されることがわかります。
 電磁誘導電圧計算式は、現場において厳密にはカーソン・ポラチェック式を用いますが、一般の通信線と架空送電線の離隔があれば、簡易式である竹内式が実用的であるため用いられています。(詳細は架空送電規程による)

c.電磁誘導障害対策

 電磁誘導電圧の制限値はわが国では、中性点直接接地方式の超高圧送電線の場合430V、0.1秒その他の送電線では、300Vを基準としています。
 国際電信電話諮問委員会では、一般の送電線では430V、0.2秒(小電流の場合最大0.5秒)以内に故障電流が除去できる高安定送電線では、人体の危険が大幅に減少するので650Vまでを許容としています。
 (a) 送電線側の対策
  ① 架空地線で故障電流を分流させ、起誘導電流を減少させる。(分流効果を増す)
  ② 送電系統の保護継電方式を完備して故障を瞬時に除去する。
  ③ 送電線のねん架を完全にする。
  ④ 中性点接地箇所を適当に選定する。
  ⑤ 負荷のバランスをはかり、零相電流をできるだけ小さく抑える。
  ⑥ ア−クホ−ンの取付。
  ⑦ 外輪変電所の変圧器中性点を1〜2台フロ−ト化(大地に接続しないで運用)
    するか、高インピ−ダンスを介して接地する。
  ⑧ 外輪変電所の変圧器中性点を10〜20Ω程度の低インピ−ダンスで接地する。
 (b) 通信線側の対策
  ① ル−トを変更して送電線の離隔を大きくする。
  ② アルミ被誘導しゃへいケ−ブルの採用。
  ③ 通信回線の途中に中継コイルあるいは高圧用誘導しゃへいコイルを挿入する。
  ④ 避雷器や保安器を設置する。(V−t特性のよいもの、避雷器の接地はA種)
  ⑤ 通信線と送電線の間に導電率のよいしゃへい線を設ける。