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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
電気回路への微分の使い方 東京電気技術高等専修学校 講師 福田 務

電磁気回路においては、磁束や電荷の時間的変化にかかわる現象があり、それを数式化して解く課題が多く、微分はこのような変化をスマートに取り扱う道具である。ここでは、微分に関する基礎事項と、例題による具体的な取り扱いについて解説する。

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01 変化を捕らえる微分という数学分野に親しもう

  電気工学には電磁誘導に関するファラデーの法則や自己誘導作用、あるいはコンデンサの充電電圧の時間変化など、いろいろな電気現象の変化の様子を数式化して解く課題が多い。このような変化の様子を細かく調べたいときに、微分という手段を使うことによってスマートに答を得られるので、ぜひ微分に親しんでほしい。
  では、微分法を用いた計算ではどのように数式(関数)の変化を捉えていくのであろうか。微分に関する基礎的な理解を得たうえで、例題に取り組んでみよう。


02 微分とはどういうことか

  ある電気現象を数式(関数)で表したら、第1図のような変化を示すグラフy=f(x) になったとする。いまこのグラフで、 x がA点( x1 )からB点 ( x2 )まで変化すると f(x) の値は、第2図のようにy1からy2まで変化していることが分かる。A からBまでどれだけ変化したかといえば、その変化の割合は、平均の変化率を調べればよい。
formula001
formula001
 ここでΔx、Δyというのはそれぞれ微小な変化を意味する記号と思えばよい。平均変化率は第2図では直線ABの傾きを表している。
 y=f(x)の曲線上の細かい変化の様子を知るには、平均変化率の幅をできるだけ狭めていきたい。Δxを限りなく0近づけることをこのように表現する。
formula002
formula002
 平均変化率を求めるときの x2 - x1x を限りなく0に近づけていくと、その関数はどのような値に近づくかを調べる操作を微分というのである。
  つまり、 formula003formula003 を求めることが微分をすることである。
  さて、関数y=f(x)において xが(x1)から(x1x)までの平均変化率は、
formula004
formula004
となる。 ここでΔxを限りなく0に近づけると、
formula005
formula005
 この値を求めることを微分係数を求めるといい、記号f'(x1) で表す。
 

(例題1)

 y = f(x) =x2+3x-4 において、xx1 = -1 からx2 = 2まで変 化するときの平均変化率を求めよ。
 

(解答)

formula007
formula007

(例題2)

  関数 f(x) = x2 - 2x+1 の x = x1 における微分係数を求めよ。
 

(解答)

 formula008formula008 において、
formula009
formula009
であるから、
formula010
formula010
となる。
 


03 微分係数を求めることはどのような意味があるのか

  曲線 y= f(x) の x=x1における微分係数を求めるということは、f(x) 上の点(x1,f(x1))における接線の傾きを求めること同じである。例えば、y = f(x) = x3x1における微分係数はf'(x1) = 3x12 と なるが、この3x12 は点x1の接線の傾きを示すと同時に、符号をもつ。
  実は、この接線の符号が大きな意味をもっている。それは符号が正であれ ばx1点で曲線は右上がりになっているし、また逆に負であれば曲線は右下が りになっている。微分係数を求める目的は、この曲線の状態を調べるうえで 大切なな役目を果たす。
  例えば、電気現象の状態の変化が関数で表された場合に、二つの点の微分係数を求めて、もし正の値から負の値になっていれば、その途中に最大値が存在することが分かる。逆に、負の値から正の値になっていればその途中に 最小値が存在することになる。
  f'(x)を求めることが微分するということであるが、f'(x)のほかに y'formula011formula011formula012formula012 などの記号も用いられる。
 


04 最大発熱量を微分を用いて解く

  抵抗Rに電流を通ずると熱が発生するが、Rをいろいろ変えたとき、発生する熱量も変化するはずである。このような変化の様子を調べるのに、微分を使うと便利である。
  例えば、第3図の回路で抵抗Rに発生する熱量Wは毎秒当たりどうなるだろうか。
 抵抗Rに生ずるジュール熱Wは 毎秒W = I2R〔J〕となる。また、この 回路で電流Iformula014formula014 であるから、
formula015
formula015
となる。

(例題3)

 発生熱量 formula016formula016 において、Erは定数である。Wが最大になるためにはどのような条件が必要か。
 

(考え方)

 今この式でRを大きくして、R→∞とすると、分母、分子とも∞になって しまうが、ただ分母のほうにR2があるため、分母の大きくなり方が分子を押さえ、W→0になることが想像できる。したがって、Wは大きくならない。
 また、R→0にすると、分子→0になるから、やはりW=0になる。
  以上のことから、R→∞、R→0の途中に最大値のあることが予想される。
  この変化の様子を細かく調べるのに、微分を使うと便利である。
 

(参考)

 ここで 関数 formula019formula019 を微分するが、関数の商の微分には次のような公 式があるので記憶しておく。
  formula020formula020 のとき formula021formula021

(解答)

 formula022formula022 を微分すると、 formula023formula023
 formula024formula024 を微分すると、 formula025formula025
 したがって、
formula026
formula026
 この微分式 formula027formula027 の符号について考えると、 r>Rのときは formula028formula028 >0であり、r <Rのときは formula029formula029 <0となる。
  formula030formula030 の符号は接線の傾きとも考えられるから、r>Rのときは増加(右上 がり)、r<Rのときは減少(右下がり)となる。したがって、r=Rのと きにWの値は最も大きくなる。したがって、
formula031
formula031
となって、これが最大値となる。
 


05 微分に対する感覚を広げてみよう

  コンデンサの電圧の時間による変化を例に、微分の考え方を推し進めてみ ょう。
 

(例題4)

 第4図のような抵抗R、コンデンサC、直流電圧E及びスイッチSを直 列に接続した回路で、コンデンサCに加わる電圧vの時間に対する変化が 第5図に示す状態であるとき、次の空欄の下線に入れる正しい文字を、下記文字群から選べ。
  ただし、はじめ、コンデンサCの電圧v=0であり、時刻t=0でSを 閉じるものとする。
  コンデンサに流れ込む電流i1 と電圧上昇率 formula033formula033 との関係は、
formula034formula034    (あ)    formula035formula035 として表わされる。また、抵抗を流れる電流i2
i2=   (い)    (    (う)   -v)

(文字群)

 R 、 1/RC 、 1/CE

 

(解説と解答)

 この問題はスイッチを閉じてから定常状態に落ち着くまでの時間tの経過 に対するコンデンサの端子電圧vの変化の様子を問題にしている。したがっ て、微分の分野の問題であり、設問は微分方程式を立てる部分があるが、時 間経過の途中の問題といっても、要は瞬間、瞬間を止めて考えればよい。
  第5図のグラフを0から0.8msまでの時間を一定の幅で、小さく区切って みると、そのつど電圧vの変化が一定でないことが分かる。
  したがって、コンデンサの端子電圧vの大きさを示すには、いつの時間帯 での大きさなのかをいう必要が出てくる。このことを formula038formula038 という表現を借りて 示している。電流iが流れることは、電荷が移動することであり、次の式が 成り立つ。
   (電荷)Q =(静電容量)C×(電圧)V
したがって、 formula039formula039 が成り立つ。
formula044formula044

 次にスイッチを閉じて定常状態に至るまで、抵抗Rに加わる電圧は (E - v)〔V〕であるから、流れる電流i2formula040formula040 となる。
  このことから formula041formula041 により、
formula045formula045
formula046formula046
 ここでi1i2もどちらも同じ大きさの電流を表現を変えて示したもので ある。そこで、i1=i2であるから、
formula043
formula043
これを微分方程式という。