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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
据置蓄電池 天野技術士事務所 天野 尚

蓄電池を用途によって大別すると据置用と移動用に分けられる。ここでは予備電源設備に用いられる据置蓄電池として、鉛蓄電池、ニッケル・カドミウムアルカリ電池について、それらの種類と構造、充電、電池容量の算出方法を概説する。
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01.種類と構造

(1)鉛蓄電池

 陽極活物質は二酸化鉛[PbO2]、陰極活物質は海綿状鉛[Pb]、電解液は希硫酸[H2SO4]であり、以下の構成となる。
PbO2│ H2SO4│ Pb
陽極   電解液   陰極
 第1表のように蓄電池から発生するガスへの対処方法によってベント形とシール形に、そして極板構造によってクラッド式とペースト式に分類されている。

■第1表 鉛蓄電池の分類■

構 造 極板構造 形 式 シールの種類
ベント形 クラッド式 CS-□  
ペースト式 PS-□
HS-□
シール形 クラッド式 CS-□E 触媒栓式
ペースト式 PS-□E
HS-□E
ペースト式 HSE-□ 制御弁式
MSE-□

   (注)形式の□は容量を表す。

 ベント形蓄電池はガス排気栓にフィルタを設け、酸霧の漏れを防ぎ、引火誘爆を防止したものである。シール形蓄電池は蓄電池から発生するガスをほとんど外部に放出しない機構を施したもので、触媒栓式と制御弁式の2種類がある。ペースト式極板は鉛合金製の格子に活物質をペースト状にして充てんしたもので、陽極板や陰極板に使われる。クラッド式極板はガラス繊維製のチューブに鉛合金製の心金を通し、その間に活物質の鉛粉を充てんし陽極板としたものである。薄型のペースト式は大電流放電に適しており、クラッド式は寿命が長いのが特徴である。
 第1図にクラッド式鉛蓄電池の構造を示す。陰極板はペースト式で、陽極板はクラッド式である。
 シール形蓄電池について少し説明を追加する。
蓄電池の充電が終了に近づくと、水の電気分解が起こり、(1)式に示す反応で陽極から酸素ガス、陰極から水素ガスが発生する。
陽極 2H2O→02+4H++4e  陰極 4H++4e →2H2 (1)
 触媒栓式は充電中に発生したガスを触媒で水に還流させるもので、発生ガスによる蓄電池内圧の上昇を防ぎ、同時に生成した水を電解液に戻して水分の減少を防止する。第2図に触媒栓を示す。
 制御弁式の蓄電池は陽極板からの酸素ガスが陰極板の表面に接触し消費されやすい構造になっている。そのために、酸素ガスは陰極板の海綿状鉛[Pb]に吸収され、一酸化鉛を生じ消失する。この一酸化鉛は電解液中の硫酸と反応して硫酸鉛となり、陰極は部分的に放電状態となる。
 すなわち、陰極板は常に完全充電状態には到達しないので、水素ガスの発生も抑制される。

(2)ニッケル・カドミウムアルカリ蓄電池

 陽極活物質はオキシ水酸化ニッケル[NiOOH]、陰極活物質は金属カドミウム[Cd]、電解液は水酸化カリウム水溶液[KOH]である。以下の構成となる。
NiOOH│KOH│Cd
陽極   電解液 陰極
放電すると、陽極活物質は水酸化ニッケル[Ni(OH)2]に還元され、陰極活物質は水酸化カドミウム[Cd(OH)2]に酸化される。
 電解液中の水酸化カリウムは直接起電反応には関与することなく、電気を伝導する役割だけを担っている。したがって、鉛蓄電池のように充放電による電解液比重の変化は起こらない。
 アルカリ蓄電池は鉛蓄電池に比べ高率放電特性、低温特性に優れており、寿命も比較的長い。
 アルカリ蓄電池は第2表のように分類される。

■第2表 アルカリ蓄電池の種類■

構 造 極板構造 形 式 シールの種類
ベント形 ポケット式 AM□P
AMH□P
AH□P
 
焼結式 AH□S
AHH□S
シール形 ポケット式 AM□PE
AMH□PE
AH□PE
触媒栓式
焼結式 AH□SE
AHH□SE
焼結式 AHHE□ 制御弁式
AHHEE□

   (注)形式の□は容量を表す。

 鉛蓄電池と同じようにベント形とシール形があり、各動作原理もほとんど同様である。
触媒栓式は電池内部で発生する酸素ガスと水素ガスを触媒によって水に戻す。また、制御弁式は陰極の容量を陽極より大きくし、陽極で発生した酸素ガスを陰極に吸収させる方式である。陰極から水素ガスを発生させず、寿命期間中補水を全く必要としないものである。
第3図に焼結式アルカリ蓄電池の構造を示す。
 極板の構造としてポケット式と焼結式がり、第4図に示す。
 ポケット式は小穴のある薄鋼板製のポケットの中に活物質を充てんしたもので、焼結式は高温で焼結した多孔性の基板に活物質を含浸させたものである。
 ポケット式極板は自己放電が少なく安価である。焼結式極板は多孔性が高く、表面積が大きいので高率放電に優れている。


02.蓄電池の充電

 予備電源装置に用いられる充電器は一般に全自動充電方式が採用され、以下の充電がそれぞれの状況で行われる。

(1)浮動充電

 自己放電電流に見合った微小電流の充電を常時行い蓄電池の容量を維持する。この充電をトリクル充電という。実際の充電では第5図に示すようにトリクル充電電流と同時に、負荷へも常時負荷電流が供給される。
 停電時には蓄電池が瞬時に放電に切り替わり負荷に単独で電流を供給する。

(2)回復充電

 停電によって蓄電池が放電した分は、速やかに回復充電を行い、次の異常時に備えなければならない。消防法・建築基準法による設備では24時間以内に回復充電をする必要がある。そこで回復充電では、充電装置の出力電圧を高くし充電電流を大きくして行う。そのとき、充電装置保護のために、第6図に示すような垂下特性をもたせ、出力電流が過大になることを抑制している。
 最初は充電装置の定格電流の120%以下に制御された定電流で充電され、充電が進行し容量が回復すれば浮動充電へ切り替わる。
 第7図に停電から回復充電を経て浮動充電に切り替わるパターンを示す。
 常時は浮動充電であり、停電によって蓄電池が放電した後、回復充電を経由して浮動充電となる。回復充電の初期には、定電流充電によって蓄電池容量の早期回復を図っている。

(3)均等充電

 蓄電池は多数個直列にして使用されるが、長期間浮動充電で使用すると、各セル間の電圧や比重のバラツキが生じてしまう。このバラツキをなくすために、3〜6ヵ月に1回均等充電を行う。均等充電は回復充電のときと同様に充電装置の出力電圧を上げて過充電を行う。



03.蓄電池容量の算出法

 蓄電池の容量は放電電流[A]と放電時間[h]の積で表され、単位はアンペァアワー[Ah]である。蓄電池の定格容量は各蓄電池に定められた放電時間と放電電流の積としている。
 以下に、「据置電池の容量算出法(SBA6001−1989)」の一部を紹介する。

(1)容量算出の一般式

 電池の容量C (25℃における定格放電率換算容量[Ah])算出の一般式は、第8図のように負荷が時間によって変化する特性に対して(2)式で計算される。
formula001
formula001
ここに、 C :25℃における定格放電率換算容量[Ah]
 
L :保守率で一般に0.8が使われる
I :放電電流[A]
K :容量換算時間[h]
容量換算時間K は蓄電池の各温度における標準特性図によって、放電時間T と許容最低電圧で読み取る値である。第9図に例としてMSE型鉛蓄電池(蓄電池温度5℃の場合)の標準特性を示す。
 また、サフィックス1、2、3、…、は、放電電流の変化の順に番号付けしたTKI の値である。
式は第1項で計算された容量を、負荷特性に沿って第2項以降で順次補正する形になっている。

(2)容量の算出例

 放電電流が時間と共に増加する負荷特性の場合を例として、蓄電池容量を算出する。与えられる条件は、
使用電池:MSE型鉛蓄電池
保守率:L =0.8
最低蓄電池温度:5℃
許容最低電圧:1.7V/セル
負荷特性:第8図において
I1=20A    I2=40A    I3=110A
T1=120分 T2=50分   T3=10分
とする。
 第9図のMSE型鉛蓄電池の標準特性図から、容量換算時間K を読み取ると、 K1=3.0h K2=1.6h K3=0.68h である。
 これらを一般式(2)に代入する。
formula002
formula002
以上によって例えばMSE−200形(200Ah/10hr)鉛蓄電池が適切である。
参 考 文 献
  1. 蓄電池設備整備資格者講習テキスト、(社)日本電池工業会
  2. 据置蓄電池の容量算出法 SBA 6001‐1989、(社)日本電池工業会規格
  3. 自家用電気技術者ハンドブック、(社)日本電気技術者協会編、
    (株)オーム社発行