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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
Presented by Electric Engineer's Association
地絡方向継電器(DGR)の方向判別機能と入力極性 東京電力(株)東京支店東京給電所 系統技術GM 前田 隆文

非接地系統、抵抗接地系統など、中性点接地インピーダンスの高い系統の地絡保護は、地絡過電流継電器(OCGR) または地絡方向継電器(DGR)が用いられます。いずれも地絡事故が発生した時に発生する零相電流が所定の値以上流れたことを検出して動作する継電器ですが、DGRは継電器設置点からみてどの方向に地絡事故があるかを判別する機能を有しています。本講では、DGRの方向判別機能と、ZCTやEVTからDGRに入力する場合の極性について解説します。

01.1線地絡事故時の零相電圧、零相電流分布

 いま、中性点高インピーダンス接地系統の代表として、抵抗接地系統における1線地絡事故を考えます。a相の1線地絡事故が発生した場合の零相電圧、零相電流の分布は、第1図、ベクトル図は第2図のようになります。
 零相電圧や零相電流の計算方法については、本電気技術解説No.04301 「配電系統の零相電圧(V0)の求め方」で、等価回路と数式を使って詳しく解説されていますので、ここでは、定性的にイメージをつかむことに重点を置いて解説します。

(1) 事故前の零相電圧、零相電流は0

 各相の対地電圧は対称な三相交流電圧EaEbEcであり、中性点の電位、すなわち零相電圧V0は零です。このとき、中性点接地抵抗Rnには電流は流れません。また、線路には、各相の対地静電容量に対地電圧EaEbEcに対応した充電電流、線間静電容量に線間電圧に対応した充電電流が流れます。この電流は三相平衡した正相分電流だけなので、零相電流成分は零です。

(2) 事故後の零相電圧、零相電流

 事故回線のa相が完全地絡して零電位になった場合を考えます。変圧器巻線各相の誘導起電力はEaEbEcで変化しませんので、a相の対地電位が-Eaだけシフトして零になると、b,c相の対地電位も-Eaだけシフトします。

a. 各部の電位、零相電圧
○健全相(b、c相)の対地電位は 倍に上昇
  ○線間電圧は不変
  ○変圧器中性点電位(零相電圧)  V0=-Ea
  になります。

b. 各部の電流、零相電流
 中性点電位がV0=-Eaになると、中性点抵抗Rnに電流は流れ始めます。
 また、線間電圧は事故前と変わらないので線間静電容量の充電電流は変化しませんが、対地静電容量についてはa,b,c相いずれもV0=-Eaだけ対地電位が変化するので、その分だけ充電電流が変化します。この中性点抵抗の電流および対地静電容量の電流変化分が零相電流成分です。

(3) テブナンの等価回路

 1線地絡事故時の零相電圧成分、零相電流成分だけに着目するのが、第3図に示すテブナンの等価回路です。中性点の抵抗は、逆数のコンダクタンスGnで表しています。
 零相変流器ZCT1、ZCT2は、送配電線地絡保護用のDGRに用い、継電器設置点から保護対象の地絡事故点に向かう電流を正とするため、母線から送配電線側に向かう向きを正と定義しています。また、このテブナンの等価回路では、各部の電流は零相電流の3倍なので、ZCT1、ZCT2の検出する零相電流は3I01、3I02としています。



02.DGRの事故点方向判別原理

(1) 零相電流の分布

 第3図のテブナンの等価回路から、単相交流回路の簡単な計算により、各部の零相電流は次式のようになります。



 事故点電流Igは、コンダクタンスGnと静電容量C1、C2の電流のベクトル和ですが、事故回線のZCT1にはGnとC2の電流の和のみが通過し、静電容量C1の電流は検出しません。健全回線のZCT2にはC2の電流のみが通過します。ここで、第1図は簡単なため健全回線1回線、事故回線1回線の合計2回線の場合を示していますが、実際には健全回線は複数回線あります。この場合、健全回線のZCTは自回線の対地静電容量の充電電流だけを検出しますが、事故回線のZCTは自回線を除く健全回線すべての対地静電容量の充電電流の総和を検出することになります。

(2) 事故回線、健全回線の零相電圧、零相電流の関係

 零相電圧は、事故回線も健全回線も同一母線であるため同じです。一般に、DGRに零相電圧を入力する場合は、零相電圧の逆極性電圧-V0=Eaを基準にします。
 第3図の中から、事故回線に係る部分だけを抜き出したのが第4図(a)、健全回線に係る部分だけを抜き出したのが第4図(b)です。また、第4図(c)はベクトル図です。

a. 事故回線の零相電流

 Gnの電流は(-V0)と同相になります。対地静電容量(事故回線を除く三相一括対地静電容量の総和)の電流は、(-V0) より90度進みます。したがって、事故回線のZCTの検出する零相電流は、零相電圧(-V0)を基準に取ると、第1象限にきます。対地静電容量は、使用中の送配電線路の回線数、こう長により変化しますが、Gnの電流は安定しているので確実な動作が保障できます。

b. 健全回線の零相電流

 Gnの電流は流れません。対地静電容量の充電電流はその健全な回線の充電電流を検出します。上式からも分かる様に、健全回線の充電電流成分は事故回線の検出する充電電流の逆位相で、-90度方向になります。

c. 事故点方向の判別

 第4図(c )から、DGRに零相電圧(-V0)とZCTの検出する零相電流(送配電線路に向かう向きを正)を入力し、第1象限にはいる場合に動作する位相特性を設ければ、事故回線だけを選択して遮断することができます。

 



03.ZCT、EVTの入力極性

(1) ZCT

 第5図は、零相電流をZCTで検出して入力する場合の入力極性を示します。事故点方向に零相電流が流れ込む向きがプラスです。対称座標法の零相電流I0は、a相、b相、c相の電流のベクトル和の1/3ですが、継電器入力の場合は3I0を零相電流と呼んでいます。各相CTをY結線した場合の残留回路にも同じ3I0が得られます。


(2) EVT

 第6図は、零相電圧を接地用変圧器(EVT)の三次回路(ブロークンデルタ結線)で検出して入力する場合の入力極性を示します。継電器に接地側をプラスで接続することにより、-3V0を入力することができます。EVTの二次回路はY結線となっており、その極性は中性点と反対側の端子をプラスとするのが普通です。ディジタル形継電器で二次回路の相電圧から零相電圧をソフト演算で作り出す場合には、演算上で極性を反転して使用しています。