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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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変圧器のスコット(T)結線とその使用例 (財)関東電気保安協会研修・技術センター研修部講師 篠原 茂

変圧器のスコット(T)結線は古くから知られている方法ではあるが、変圧器の結線方法の妙ともいうべき方式であり、興味深い。この方式は相変換方法の一つであって、三相交流から二相交流に変換を行うもので、三相交流回路から大きい単相交流負荷(交流式電気鉄道、電気炉など)にまたは非常用予備発電装置から単相交流負荷に供給する際などに三相交流電源への電圧不平衡防止のためしばしば採用される。 ここでは変圧器のスコット(T)結線の原理、接続方法とその使用例について紹介する。
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01.変圧器のスコット(T)結線方式とは

 変圧器のスコット(T)結線方式の原理についてその概要を紹介する。
 第1図はスコット結線の方法を示す。単相変圧器2台によって formula001formula001 変圧器の一次巻線の中点Nと formula002formula002 変圧器の一端Oを結ぶ。 formula003formula003 変圧器はOから全巻数の formula004formula004 (=0.866)の点にタップSを設ける。 formula005formula005 変圧器の両端と formula006formula006 変圧器のタップSの口出線とに三相交流電源を接続する。二次側は formula007formula007formula008formula008 変圧器の起電力の同一極性点を共通点として、他端から導線を引き出して平衡二相交流を得るものである。
 第2図は formula009formula009formula010formula010 変圧器の一次側、二次側の結線方法を示したものである。 formula011formula011formula012formula012 変圧器の起電力の正方向を第2図のようにとれば、その電圧ベクトルは第3図のようになる。第3図で、 formula013formula013 であり、第2図から formula014formula014 になる。また、 formula015formula015 である。そしてその大きさは、 formula016formula016 の電圧の大きさを formula017formula017 とすれば formula018formula018 は巻数が formula019formula019 であるからその起電力も formula020formula020 倍になる。よって、 formula021formula021formula022formula022 の大きさは formula023formula023 となる。すなわち、対称三相交流電圧 formula024formula024formula026formula026formula027formula027 を一次側に印加すれば formula028formula028 変圧器の一次側には formula029formula029 の起電力が発生し、二次側には同相で巻数比 formula030formula030 に相当する二次起電力 formula031formula031 が発生する。 formula032formula032 変圧器には一次側に formula033formula033 の起電力を発生し、その位相は第3図の一次側に示すように formula034formula034 より位相が90°進む。二次起電力 formula035formula035 はこれと同相で大きさは巻数比が formula036formula036 であるから formula037formula037  となり formula038formula038 と同じになる。よって第3図の二次側に示すように二相交流電源が得られる。
 なお、電流に関しても前述の電圧に準じて計算することができるので、その過程は省略するが、二次側に負荷力率 formula039formula039 の平衡二相交流電流 formula040formula040formula041formula041 が流れれば、一次側も平衡三相交流電流 formula042formula042formula043formula043formula044formula044 が流れる仕組みになっている。


02.変圧器のスコット(T)結線の使用例

 変圧器のスコット(T)結線はその用途として代表的なものは、交流式電気鉄道であり、その他電気炉や最近は非常用予備発電装置の単相交流回路にしばしば使用されている。それらの例を簡単に紹介する。

(1) 交流式電気鉄道の変電設備の使用例

 交流式電気鉄道は我が国では新幹線や比較的電化が遅れていた東北・北海道・北陸・九州地方などの在来線に採用されている。
 交流式電気鉄道には単線式と複線式とがある。通常、き電回路は変電所に対してデッドセクションの左右に単線式の場合2回路、複線式の場合4回路が必要になり、これに対して三相交流で供給すると著しい不平衡をきたすおそれがある。したがって、変圧器のスコット(T)結線を使用して位相角が90°異なる単相交流に変成して変電所を境界にして単線式の場合は左右方面別に二つのき電回路、複線式の場合は上下・左右方面別に四つのき電回路に供給し、一次側(三相交流側)電流ほぼ均等にして三相交流電源への不平衡による影響を軽減している(第4図)。
 三相交流電源系統から大容量の単相電力を使用すると、三相交流側に不平衡電圧を生じ三相負荷に逆相電流が流れて、特に誘導電動機はこの影響を受けやすく、過熱したり、正味発生トルクが減少したりする。したがって、三相交流電源側の電流はできる限り平衡させることが望ましく、交流式電気鉄道では電気設備技術基準第55条及び同基準解釈第260条に基づき、連続2時間の平均負荷で三相交流電圧不平衡率 が3%以下にするよう規定されている。

(2) 非常用予備発電装置の使用例

 非常用予備発電装置の負荷は主として防災用負荷に供給される例が多いが、これらには三相負荷と単相負荷とがあり、後者に対して電源の三相交流電圧不平衡による影響を軽減するため第5図に示すように三相交流→二相交流に変換するためにスコット(T)結線変圧器がしばしば使用されている。