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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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電線・ケーブルの瞬時許容電流 片岡技術士事務所代表 片岡喜久雄

電線・ケーブルのサイズを決める場合、供給する負荷電力に対応する電流に若干の余裕を持たせ、さらに将来の増加を考慮した許容電流を持つサイズの電線またはケーブルを選定することが行われています。この場合の許容電流は、常時許容電流と短時間許容電流があり、この短絡電流に対する許容電流を瞬時許容電流といいます。電線・ケーブルについての瞬時許容電流について解説します。

瞬時許容電流とは

 我々は送電、配電、屋内配線いずれも電線・ケーブルのサイズを決める場合、供給する負荷電力に対応する電流に若干の余裕を持たせ、さらに将来の増加を考慮した許容電流を持つサイズの電線またはケーブルを選定することが行われています。
 この場合の許容電流は、常時許容電流と呼ばれるもので、連続して流せる電流の限度であり、連続して流しても電線・ケーブルに電気的、機械的な性能の低下が無い値をとります。
 しかし、系統運用上この値を越えて電流を流すことが必要な場合があります。たとえば、送受電系統切り替え時、あるいは並列2回線の送電線で、1回線がトリップした場合で、その回線の再送電が不能の場合など、負荷を他の系統に切り替える間の数時間以内に限って常時許容電流を超えた電流を流さざるを得ない場合があります。
 この場合にも電線・ケーブルの性能や寿命に大きな影響を与えてはならないことが必要で、このような短時間に限って流せ得る電流を短時間許容電流といいます。また、短絡故障時に流れる大電流も保護装置の動作により遮断されるまでの間安全に流せるものでなければなりません。
 この短絡電流に対する許容電流を瞬時許容電流といい、電線・ケーブルのサイズ決定に重要な要件です。
 いずれの許容電流も基底温度に温度上昇を加えた最大温度で定められています。短時間許容電流、瞬時許容電流ともに通電時間が長くなるほどその値は小さくなります。


瞬時許容電流の重要性

 電気回路の設計では使用中に短絡故障の発生は避けられないものとし、この対策として、いろいろな過電流保護装置が設置されています。
 電線やケーブルではそれ自体に短絡が発生しなくても、負荷側で短絡故障が発生すると、全線にわたって短絡電流が流れます。所要負荷電流を基準にした常時許容電流だけから電線・ケーブルのサイズを決定していることが多く見受けられますが、瞬時許容電流が不足していると短絡故障時の大電流によって、焼きなましによる断線、あるいは絶縁物の劣化によって文字通り、瞬時にして全線にわたって使用不能になる場合もあります。
 実際問題として供給負荷の容量から50mm2で十分であっても瞬時許容電流から 150mm2とすることはよくあることです。また、建設当時には短絡電流に対して 瞬時許容電流は十分余裕があったものが、その後の電力系統の拡大による短絡容量の増大で不足することもあります。
 このような場合で電線やケーブルの引き替えが困難な場合には、過電流継電器の整定を見直すことで対応する必要もあります。
 このように、瞬時許容電流は電線・ケーブルのサイズを決定するにあたって忘れてはならない重要なことなのです。


瞬時許容電流の算出法

 瞬時許容電流の計算では、短絡電流は故障の発生から過電流保護装置の動作による遮断まで、その流れる時間は最大2秒程度と短時間なので、発生した熱量は導体から放散せず、全て導体内に蓄積するものと考えて計算します。
 ただし、OFケーブルでは導体撚り線内の絶縁油も当然導体同様に発生熱を蓄積するものとします。
 瞬時許容電流に対する最高許容温度は、普通硬銅線で200℃、CVケーブルで 230℃です。この値は架空電線では常時最高許容温度の約2倍、地中ケーブルでは約2.5倍です。
 このように、瞬時許容電流を考える場合、発生熱は全て導体内に蓄積するものとするため、瞬時許容電流は最高許容温度が決まれば、導体の線材の特性、すなわち線種と短絡電流の通電時間だけで決まります。
 電線・ケーブルの瞬時許容電流の概略計算式として次の式があります。
実用上瞬時許容電流の精密な計算はあまり意味がなく、この概算式で十分で、一般に使用されています。
          

 ただし、:定数(第1表による),:導体断面積[mm2],S:短絡電流持続時間[s]
 第1表に種類ごとの瞬時最高許容温度との値を示します。

第1表 瞬時許容最高温度との値
            

 以上、電線・ケーブルの瞬時許容電流について述べましたが、これは設計あるいは保守管理上軽視できない重要事項なのです。