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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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架空送電線の再閉路 片岡技術士事務所 代表 片岡 喜久雄

架空送電線は電力系統上に点のように配置されている発変電所などの機器と異なり、長大な区間にわたって設置され、また主要構造物である鉄塔は付近の建築物や樹木に比べて格段に高い。このため雷害、塩害などを受けやすく、事故件数は発変電設備や地中送電線に比べて極めて多い。また、超高圧架空送電線は送電電力が大きく、系統上の重要度も大きいため、安定度のうえからも事故は極めて短時間に復旧されることが望まれる。これらの背景を踏まえて、架空送電線の再閉路方式について解説する。
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01 架空送電線事故の特徴と再閉路

(a) 事故件数が多い

 架空送電線は電力系統上に点のように配置されている発変電所などの機 器と異なり、長大な区間にわたって設置され、また主要構造物である鉄塔 は付近の建築物や樹木に比べて格段に高い。
  このため雷害、塩害などを受けやすく、事故件数は発変電設備や地中送 電線に比べて極めて多い。また、超高圧架空送電線は送電電力が大きく、 系統上の重要度も大きいため、安定度のうえからも事故は極めて短時間に 復旧されることが望まれる。
 

(b) アーキングホーンの役割

 架空送電線は碍子(がいし)による気中絶縁によっている。したがって、事 故時のアークによって碍子が破壊したり、最悪の場合、碍子連が破断した りすることは復旧に長時間を要することから絶対に避けたいものである。
  このため送電線の碍子連にはアーキングホーンが取り付けられている。 アーキングホーンの取り付け状態図を第1図に示す。
  雷撃などの異常電圧によるフラッシオーバを碍子連に絡ませず確実にア ーキングホーン間で起こらせるため、ホーン間隔と碍子連長の比は、
Z/Z0≦0.8
にしている。(第1図参照)
 塩害のように碍子表面から発生するアークもホーン間に移行させて碍子 連の破損を防止する。当然であるが、アーキングホーンにアークを移して も地絡状態であることに変わりはない。

(c) 一時的な事故がほとんどである

 架空送電線の絶縁は碍子だけによる気中絶縁である。したがって、事故 は雷害、塩害、飛来物の接触などすべてフラッシオーバである。このため いったん故障箇所を遮断すればほとんどの場合絶縁は回復する。アーキン グホーンの効果もあって碍子連の破断など永久事故になることは極めて少 ない。これに対し、地中送電線や発変電機器などでは事故は絶縁物の破壊 であり、ブッシング部分を除いて自然回復はありえず、自動再閉路は事故 を拡大するおそれがあり、採用されない。
  以上が架空送電線に再閉路方式の採用される理由である。再閉路の成功 率は次の式による。
 
formula002
formula002
 第1表に再閉路成功率の例を示す。現在再閉路成功率は95%以上に達し ている。


02 再閉路方式の種類

(a) 再閉路時間による区分

 事故遮断から再閉路完了までの時間から、それが1秒以内のものを高速 度再閉路と呼び、超高圧の主幹送電線に採用されている。系統の安定度か らはこの時間は短ければ短いほどよいが、遮断器の特性やアーク路の消イ オン時間などから限度がある。事故電流によるアーク路は高温によって空 気が電離、イオン化しており、電路を遮断後これが拡散しないうちに再送 電すると再びアークが発生して再閉路は失敗する。第2図に事故遮断後の イオン消去に要する時間と公称電圧との関係を示す。
 高速再閉路に要する時間はリレー動作に1サイクル、遮断器3~4サイク ルで事故点が遮断され、無電圧時間が15サイクル程度である。
  また、無電圧の時間が1分程度のものがあり、これを低速度再閉路と呼 んでいる。これは主として配電線の再閉路に適用されている。配電線では 樹木の接触や、広く分布設置されている柱上変圧器、開閉器などの配電機 器、自家用受電設備の事故波及などの事故箇所が完全に切り離される時間 を見込んだもので、配電用変電所の引出し口遮断器で行われる。
  更に無電圧時間が1~15秒程度のものを中速度再閉路と呼ぶこともある。

(b) 遮断相による区分

 自動高速度再閉路方式としては、大きく分別して三相再閉路、単相再閉 路、多相再閉路の3種がある。
  三相再閉路方式は第3図で2回線送電線の片回線に事故が発生した場合、 それが1線地絡、2線地絡など事故の種類や事故相に無関係に、事故回線 を両側の変電所で遮断し、所定時間後に再送電するものである。
 単相再閉路方式は1線地絡に限って事故相を選択遮断し、所定時間後に 再送電するものである。この場合、遮断相以外の2相は送電を継続したま まである。
  この方式では第3図で1号線、2号線共にA相1線地絡の2回線事故の 場合、三相再閉路方式であれば両回線とも遮断されて、両変電所間の連系 が断たれ、系統に与える事故の影響は特に大きくなる。また、このように 系統が分離した場合、ふつう高速度再閉路は行わない。
  単相再閉路方式であれば再閉路が成功である限り、系統への影響は極め て小さくて済む。2回線送電線では雷撃による2回線同相の地絡事故が比 較的多いことから特に有効である。
  多相再閉路方式は平行2回線送電線で、2回線のうち2相以上が健在で 系統の連系が保たれていることを条件に、両回線の同時事故でも、事故相 だけを選択して高速度再閉路する方式である。
  例えば、第3図で1号線のA相とB相及び2号線のB相とC相の同時 事故の場合はそれぞれの事故相を両端で選択遮断し高速度再閉路する。
  この場合は1号線のC相と、2号線のA相で系統連系が確保できるため 高速度再閉路が可能である。
  また、多相再閉路は異なる2相以上が健全であれば事故相を選択遮断し て再閉路を行うものであるから、例えば2回線中1回線の三相事故でも高 速度再閉路を行うし、2回線6相中1相地絡事故の場合でも高速度再閉路 を行う。
  このことから多相再閉路方式は、三相再閉路と単相再閉路の機能を両方 併せもっているともいえる。
 


03 保護装置との関連

(a) 遮断器の性能向上

 高速度再閉路方式が採用されたのには、遮断器の性能の向上が大きく寄 与している。
  高速再閉路方式では極めて短時間の間に、事故電流の遮断と再投入をし なればならず、更に再閉路不成功の場合には再び遮断しなければならない。
  このような動作を正確に行うため、可動部の慣性が小さく、電流遮断性能 の高いガス遮断器が主として使われている。
  また、単相再閉路方式、多相再閉路方式を採用するためには遮断器は各 相ごとに独立して動作できるものでなければならない。

(b) 保護継電器には信号伝送を必要とする

 変圧器の内部事故を検出するには、高圧側と低圧側のCTを組み合わせ て、その差電流を取り出すことによって極めて正確な検出が容易であるが、 架空送電線では送受電両端の距離が数十km、場合によっては数百kmと 離れており、しかも高速再閉路を実施するためには送電線両端の同期が維 持されている必要があり、並行回線の潮流の有無、場合によっては同期検 出継電器による確認をする。また、系統がループ運用されている場合には ループ連系確認が必要になる。
  これらの情報を送電線両端へ取り込み、高速再閉路実施の可否を自動的 に判断するが、この信号伝送路として送電線のこう長にも制約されないた め、重要線路にはマイクロ波回線が採用されている。
 第4図にマイクロ波搬送継電器のシステム例を示す。

(c) 不平衡絶縁

 超高圧の重要線路では事故時に確実に再閉路を動作させ、安定度を確保 すため並行2回線送電線での雷撃異常電圧による2回線事故を避けるため、 両回線の絶縁に差を付けることが行われることがある。
  これを不平衡絶縁と呼んでいる。これはアーキングホーン間隔を調節し て行うもので(第1図参照)、 公称電圧500kV線路での適用例では、1号線 のアーキングホーン間隔が各相2,400mm、2号線が4,000mmである。こ れによって雷撃による事故を1号線に限定しようとするものである。