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社団法人日本電気技術者協会 電気技術解説講座 文字サイズ変更ヘルプ
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据置蓄電池の保守 旭化成EICソリューションズ(株) 電気技術部 大川 美彦

自家用電気設備に用いられる蓄電池の主な役割は、商用電源が停電した際に負荷をバックアップすることである。多くの設備で、蓄電池は非常時の最後の砦となって働くことが期待されている。ここでは、蓄電池の保守概要について解説する。

[1]定期点検

 蓄電池の保守・点検によって、異常を発見し寿命を予測することがある程度可能であるため、保守・点検によって蓄電池の信頼性を極めて高く維持することができる。

(a)2週間または1か月ごとの点検

 メーター類の指示値、目視による外観点検など。

(b)6か月ごと及び1年ごとの点検

 蓄電池の状態を調べるため、測定、データを得る点検など。

(c)精密点検(不定期)

 主として容量試験。抜取りセルの容量を確認し、経年的な容量変化を求めて、寿命時期を推定する。または実負荷でテストして、機器を正常に動作できるか否か確認する。

 一例として据置鉛蓄電池6か月点検の内容を第1表に示す。

[2]保守と点検

 一般的に保守・点検といわれるが、蓄電池の保守と点検を区分して次に示す。

(a)保 守

 そのことを実施しなければ、期待した性能を発揮できなくなる事項。換言すれば、機能維持のための必要不可欠な行為。

 ① 補水、② 均等充電、③ 清掃、④ 端子増締など

(b)点 検

 異常をより早く発見し、より適切な処置を実施するための情報入手の手段。

 ① 浮動充電電圧(総電圧、各セルの電圧)

 ② 電解液比重(鉛蓄電池のみ)

 ③ 電解液温度、④ 電解液面、⑤ 外観など

[3]異常の診断

(a) 各セルの電圧

 浮動充電中の個々の単電池電圧を測定する。内部短絡の発生、自己放電の増大、不純物の混入、内部抵抗の異常な上昇などによって単電池電圧は異なり、また変化する。個々の電池によって、電圧のバラツキが多少あるが、保守の規定範囲を逸脱した単電池にはなんらかの異常があるものとして判断する。

(b) 電解液の比重

 鉛蓄電池で浮動充電されている場合、蓄電池は常に満充電状態にあるはずである。満充電状態では電解液比重は規定比重値±0.01の保守管理範囲内となる。特定のセルがこの管理範囲を逸脱していると、そのセルはなんらかの異常が起こっていると推定し、詳細に調べる必要がある。

(c) 電解液温度

 電解液温度が高くなるケースとしては、① 全セルの温度が高くなっている。② 特定のセルの温度が高くなっている。③ 一部の集団として(上段の電池群など)温度が高くなっている。

 ①は充電電流の過大、充電電圧の過大、環境温度の過大が原因である。

 ②は特定セルの異常(内部短絡など)

 ③は蓄電池近傍の換気不足、熱源の近くに配置されている。

 などがある。

(d) 電解液面

 浮動充電中に水が電気分解されて、水素ガスと酸素ガスを発生する。分解された水がガスとなってセル外へ放出されるので、それに相当した分だけ、電解液中の水が減少し、電解液面が低下する。したがって、減少した水に相当した補水を行わなければならない。減液速度が速い原因は充電電流が過大であり、その原因は浮動充電電圧の設定値が高い、環境温度が高い、不良セルがある、などが予想される。

(e) 外観

 ① 電槽、ふたなどの亀裂、変形、漏液の有無など。② 各種栓体のパッキン類の異常の有無。③ 汚損の有無。④ キュービクル、架台、接続部などの発錆の有無。

などがある。

[4]メンテナンスフリー化

 蓄電池は電解液が減少するため補水作業が必要であった。この補水作業をなくすことがメンテナンスフリー化につながる。蓄電池の電解液減少を防ぐには、蓄電池を密閉化する必要がある。蓄電池を過充電すると電解液中の水の電気分解が起こり、正極からは酸素ガスが、負極からは水素ガスが発生する。蓄電池の密閉化するには、発生したガスを蓄電池内で再結合させて水に戻すか、ガス発生を起こしにくくする手段がある。触媒栓式シール形鉛蓄電池は、蓄電池のふた上部に触媒栓を取り付け、発生した酸素ガスと水素ガスを触媒の作用により再結合させ水に戻している。一方、制御弁式鉛蓄電池は酸素ガスを負極で吸収することにより水素ガスの発生を抑制し、密閉化を実現したものである。前者は完全に補水作業をなくすことはできないので、触媒栓式から制御弁式鉛蓄電池への移行が急速に進んだ。第1図に触媒栓式鉛蓄電池と制御弁式鉛蓄電池の構造比較を示す。

[5]充電方式

 据置蓄電池は通常単電池で使用されることはなく、必要電圧に応じて複数の単電池を直列接続し、整流器などの電源装置と組み合わせて使用される。商用電源から受電しているときは、浮動充電状態で負荷変動に対して安定した電力を供給し、また停電時には、商用電源に代わって負荷へ電力を供給する。したがって、据置蓄電池の充電には商用電源から充電しているときの浮動充電と、停電時の放電後の容量を回復させるための回復充電がある。さらに蓄電池の据付位置温度の影響による充電効率の差や蓄電池個々の自己放電率の差によるばらつきを解消するために定期的に行う均等充電がある。

[6]寿命と更新

 蓄電池の多くは、いつ、いかなるときでも負荷をバックアップしなければならない。このことは、蓄電池が寿命に至ったと判断されても、その翌日も負荷をバックアップしなければならないことを意味する。すなわち、蓄電池は寿命に至ってから更新することを検討したのでは遅過ぎる。劣化診断技術を確立し、期待寿命をまっとうさせて適正時期に更新計画を立てることが大事である。

参考文献
・電気技術者、1990年6月号、自家用電気設備異常診断の実際(6)
・OHM、2002年8月号、UPS用蓄電池の技術動向と保守